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28:近くの村

「頑張って来いよ~!」


 重すぎる食料袋からいくつかの野菜と小麦粉をヒローナのリュックに戻した後、俺たちは森の中を歩いていた。


「これ…どこに、向かってるんだ」


 まだ森を抜けていないのに、俺はもうへとへとだった。何個か戻したと言ってもまだ重い食料袋のせいか、俺の体力が無さすぎるせいか……何が悪いのか全く分からない。


「アン、変わろうか?」

「うるさいうるさい。これは俺が持つんだ」


 魅力的な提案だが、まだ持っていられる、セイに俺はやるときはやる男なんだぞって言うところを見せたい。


「アンコは真面目だな」

「そうさ、俺は真面目だからな」


 チクリ。と親方と草刈りしていた時の俺が脳裏に映し出される。

 地震……親方、大丈夫かな。親方だけじゃない、俺の家族や村の人達も心配だった。


「どこに向かっているかだが、昨日の揺れによる被害を受けた集落だ」

「つまり手伝いか」

「まぁそうだな」

「地震の被害……何もないといいのですが」


 セイも心配しているようだった。


「今日はとりあえず近くの集落に行こうと思う。その、地震の被害は私たちとはあまり変わらないはずだ」

「他は……他はどうなんだ? 酷いことに遭ってるやつもいるんじゃないか?」


 状況が俺たちと変わらないのなら、一日でも早く被害の大きい場所へ行くべきだと思った。


「もちろんいると思う。今も助けを待っているとも思う」

「なら、助けに行くべきじゃないか?」

(もっとも)もだな。だけど、どこがどのくらいの被害を受けているのか分からない状況だ。私は近い場所から助けていくのが良いことだと思う」


 彼女の言い分は俺を納得させるのには十分だった。一人でも多く助けたいのならそうしたほうが良いと思った。

 困っている人の前に突然現れる事が出来れば話は別かも知れないが。


「着いたぞ」

「やっと着いた〜〜……」

「森を抜けたらすぐだったね」


 森を抜けたらすぐ……? 抜けた後も結構あるかなかったか?

 どうしても信じられなくて、来た道を見ると、視界の下半分を木や草が占領していた。


「マジですぐだったんだな……体感三十分は歩いたと思ったけど」


 独り言ながら歩いていると、周りには道と言える道が見えない辺鄙な村の中にいた。村の家々は特に壊れている様子はなく、被害はなさそうに思える。


「大丈夫そうで良かったね」

「そうだな」


 外の者感丸出しでキョロキョロと見渡していると、先を歩いていたヒローナが立ち止まる。俺たちの先には普通の小さな一軒家。


「今日はここで休憩しようか」

「宿っぽくは無いけど?」

「入ったら分かるさ」


 ま、まさか強盗する気か!?

 と言うわけでもなく、ヒローナは普通に扉を開いて家の中に入る。


「おっ、ヒローナ」


 家の中には五十代くらいのおじさんと、若い大人の男女が四人いた。


「そこの子供は見ない顔だな」

「最近新しく迎え入れたんだ。この子たちが手伝いたいって言ってくれてな」


 おじさんの眉間にはシワが出来ていて、厳し雰囲気を醸し出していて怖かった。


「そうか。そこの女の子はどこかで……」

「俺! アンコ・ヒジリって言います! よろしくお願いします!」


 セイを怪しむおじさんに焦って自己紹介をしてしまった。別に隠す事でもないのに。


「人がしゃべっているときに……失礼だな」


 案の定というべきか、おじさんは不機嫌気味だった。

 とっさに割り込んでしまって、特に考えもなかった俺は誤魔化すこともできずに、内心焦っているばかり。状況はさらに悪化してしまうかもしれない。


「気分を悪くしてしまったらすまない。アンコは緊張しやすくてな。口走ってしまったんだよ」

「謝らないでくれ、あんたには恩がある。空気を悪くしてしまって、すまないな。アンコ、名乗るのは人の話が終わってからで頼むな」


 それで、とおじさんは続ける。


「そこの子はどこかで見たことあるんだが……あったことはあるか?」

「いえ、初対面だと思います」


 セイの変わり身は早かった。この小さな家に入る前までは年相応の女の子みたいに俺やヒローナと話していたのに、今は十五歳という若さを感じさせない程に大人びていて、聖女然としていた。


「私の名前はセイ・コンケイトと申します」


 その名前を聞いてもおじさんは思い出せない様子だったが、後ろで呆然としていた若い男女は、俺から見ても分かりやすいほどに肩が上がっていた。


「ほ、本物か……?」

「分かんない、都でチラッと見ただけだもん」


 ひそひそと、有名人を初めて見た人みたいにはしゃいでいる。


「どうしたどうした、若い者ども。何をはしゃいでんだ」

「いや、だって……セイ、セイ様って……聖女様じゃないですか!」

「聖女…………様!?!?!?」


 おじさんはそれはもう分かりやすいほどに驚いていた。よほど信じられないのか、おじさんと若者たちは「せ、聖女様?」「うんうん」「聖女様?」「うん」と何度か顔を合わせていた。


「ひ、ヒローナお前……ちょっと来い」


 ヒローナは困ったような表情で手招きするおじさんの下に行く。すると、二人は俺たちに背を向けて、ヒソヒソと話し始める。


「……連れ去ってきたぁ!?」


 突然出た大きな声に思わず耳をふさいだ。

 二人は話が終わったのか、俺たちの方に振り向いてくる。ヒローナは苦笑いを浮かべていて、一方のおじさんは出会って間もないのに疲れ果てたように頭を押さえていた。


「まぁ……その、大変だったんだな」

「大変……確かに新しい居場所に慣れることは大変でしたけれど、天使になった私を……暗いところにいた私を救ってくれたヒローナには感謝しています」


 コホン。とヒローナが咳払いする。彼女の頬は赤く染まっていて、少し緊張した様子だった。褒められることが少し恥ずかしいのかな。


「自己紹介はその辺にして、地震の被害はどうだ」

「被害と言える被害は無いぜ。みんな無事だし、倒れた家屋はちゃんともとに戻せた。お前たちが手伝えるところは正直ない」


 おじさんの正直な報告に、俺は安心に思うと同時に、残念だとも思った。

 村に向かっている間、助けを求める人たちを救って救って、感謝されて……そんな妄想を繰り広げていた俺にとっては味気なかった。


「アンコって言ったか。まぁそんなに落ち込むな。小僧の助けを必要とする人は必ず現れる」


 おじさんは俺の内心を見破ってか、俺の肩を組んで「今は何もなかったことを喜ぼうじゃないか」と俺を諭してくれた。

 そうだ、被害が無くて落ち込むとか人としてどうかしている。


「申し遅れたが、俺の名前は『アンジイ』だ。明日には他のところに行っているかもしれないが、よろしくな」

「「よろしくお願いします」!」


 そうして、俺たちは今いる小さな家に荷物を置いて、次に行く場所に備える。

 やることが無くてアンジイの村の農作業を手伝ったり、村にいるガキたちと遊んだり……いろいろなことをしていたら、いつの間にか夜になっていた。


「それじゃ、皆おやすみ」

「「おやすみ」なさい」


 晩ご飯を食べてお風呂も済ませた俺とセイは、宿の中にあったふかふかの敷布団の上で眠るのだった。ヒローナはというと、硬い床の上で寝ている。

 敷布団は二つしかなく、ヒローナは「私は大人だからね」と、俺たちに敷布団を譲ってくれた。

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