表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/29

20:おかえりなさい!

「ここだったか」


 セイに手を引かれ着いた場所は、中央の大きい家を囲むように小さな一軒家が立てられた―ヒローナたちの住んでいる場所だった。


「さっ、夜だし家の中に入っちゃお」

「お、おう」


 俺は手引するセイの後について行くと、視線の先には一昨日止まった時に使った俺たちの家があった。集落の中央にある大きな家からの美味そうな臭いにつられて腹がグ~と大きな音を鳴らす。

 セイに会ってから集落に来るまで忘れていたが、俺はまだ晩御飯を食べていない。


「お腹減ったの?」

「今日はずっと大変な目にあってたから、それどころじゃなくて…」


 正直、身体に疲れも溜まっていて今すぐにでも寝たい状況でもあった。


「そうなんだ…まぁ、まずは体を休めなよ」


 俺たちはセイの住んでいる家に着くと、セイは「ちょっと待ってて」と言って先に家に入っていく。少しすると、上から光が差してきた。気になって見上げると、玄関の扉の隙間から光が漏れていた。

 どうやらセイは家の灯りをつけているらしい。

 一体何をするつもりなのか。

 部屋でも散らかってるのかな。


―バン!


「うわ!」


 真っ白な頭でセイのしていることを考えていると、急に目の前の扉が開かれた。

 目の前にはセイの姿。

 少女は「びっくりさせちゃった」と呟いて、気を取り直すように深呼吸する。


「———おかえり! アンコ!」

「あっ……ふっ。ハハハ」


 大袈裟に両手を広げて、元気よく言うセイ。なんだかおかしくって、やさしくって…前が見えなかった。


「ちょ…アン!?」


 家に灯りがついているからか、セイの気持ちなのか、先が真っ暗闇で人生を諦めかけていた俺にはあまりにも温かくて、暖かくて……両手を広げるセイを抱きしめた。

 ありがとう。と思っていたが、そのまま言葉にするのは違う気がした。


「ただいま…!」


 俺も元気よく言いたかったが、最後に上ずってしまった。


「…おかえり」


 母親のような心あたたまる声だった。

 少女の手が、俺の背中に静かに触れる。

 体温が、心臓の鼓動が、伝わってくる。

 セイは落ち着いた声をしていたが、伝わる鼓動は早くて…緊張しているようだった。


「ア、アン。とりあえず入りましょ」

「ごめんな。急に抱き着いたりして」

「そうだよ。これからは気を付けてね」


 わざとらしく頬を膨らませるセイにデコピンをかまされるのだった。


「さ、座って座って♪」


 家に入ったセイはリビングにある椅子を引いてくれた。


「ごめんな」


 俺は素直に甘えて、椅子に座る。


「フンフフン♪」


 それにしても疲れた。

 背もたれに寄りかかる気力もなくて、目の前の机に突っ伏す。


(今晩はセイが泊めてくれそうだけど…これからどうしようか……このままごくつぶしになるのも悪いし…)


「…死にた


   くない」


 あっぶな!

 自然と「死にたい」が口から出そうだった。


「何か言った? アン」

「いや。何も言ってない」


 幸いにも小声だったからかセイには聞こえていないみたいだった。

 救われたと思っても心は傷ついたまま。


「寝なきゃな…」


 今の精神状態だと、いつおかしなことを言いそうになるのか分かったものじゃない。

 鼻孔を擽る美味しそうな匂い。


「アン。お腹空いてるでしょ」


 ほんのり香るトマトの匂い。

 体を起こすと、セイが台所に立って何かをかき混ぜているのが見えた。


「そりゃ、何も食ってないから」


 セイは鍋からすくってトマトスープを器によそいで、俺の前に置いてくれる。


「はい、これも」


 スープの他に、パンを一つ、食器も置いてくれた。


「スープ余ってて良かったよ~」


 赤く熟れた美味そうなトマトスープの中には豆が入っていた。

 トマトベースの豆のスープにパン。母ちゃんがよく作ってくれる晩御飯だった。


「母ちゃん…」


 もう、母ちゃんの作るご飯は食べられないのかな…。


「材料はヒローナたちにおすそ分けしてもらったんだ~」


〈兄ちゃん……悪いこと……したの…?〉

「ウッ」


 妹の怯える姿が脳裏によぎってしまって、思わず頭を押さえる。

 犯罪者のお前には合わせる顔なんて無い。そう自分に言われている気がした。


「ごめん…ごめんな……」


 自己嫌悪する俺の背中が、何者かに寄りかかられて、


「大丈夫、大丈夫だよ」


 穏やかな声をかけられた。


「セイ、ごめんな…俺、困らせてるよな…」

「そんなことない。あなたの気持ち、理解わかるから」


 ギューッと抱きしめられる。

 さっき温められたのに…また温めてもらっている。


「きっと辛いことが いっぱいあったんだよね」


 家に入れてもらって、ご飯も作ってもらって…それでもくよくよしている俺が情けない。


「ねぇ あなたのこと 聞かせて」


 そんな情けない俺にセイは呆れもせずに話しかけてくれる。

 抱擁する腕も優しくて、広くて。


「俺、甘えても良いのかな…男なのに……」

「良いんだよ。男や女なんて関係ない。人は誰だって、支えられないとつぶれちゃう」

「そうなんだな…」

「そうだよ だから…あなたのこと 聞かせて」


 支えられないと…か。

 俺に抱き着くセイの手を、軽く握る。そうすると、辛いことも話せそうだったから。


「俺…指名手配されてて…。それで、親方に詰められて…家に戻って……妹に」


 言葉を紡げなかった。話すたびに今日あった出来事が想起されて、言葉にしようとしても厚い壁にぶつかって、中々出てこない。


「大丈夫 話して」


 握る手を、セイが握り返してくれる。

 大丈夫、セイがいる。


「妹に、怯えられ………て それで俺、逃げてきて…気づいたら小川にいて、セイと出会って…」


 あとはセイの知る通り。


「ありがとうね。聞かせてくれて」


 セイは慈しむように続ける。


「大変だったよね。辛かったよね。いつ解決できるかは分からないけれど、私も手伝う」


 俺を抱きしめる柔らかな腕は離れていって、まだ温かさを感じていたかった俺は、自然と目で追っていた。

 目線の先には、屈んだセイがいる。


「帰れるようになるまで、ここにいて良いからね」

「ありがとな…」


 彼女のおっとりした言葉に身体が楽になる感覚を覚える。


「さっ。早く晩ご飯食べましょ。冷めちゃう」


 彼女はにっこりとほほ笑んだ後、ピョンと立ち上がるのだった。


「そうだな」


 俺は晩御飯のある方に向き直って、4を一文字書きするように右手を動かす。

 そうして、胸の前でパン。と手を合わせる。


「いただきます」


 今から食べる食材に感謝を伝える。

 セイの作ったご飯は美味かった。腹も、身体も満たされる。

 美味かったのは美味かったけど、一つ引っかかる点があった。


「この豆のスープ、俺の母ちゃんのと同じ味がする」

「昔ね、お義母(かあ)さまに教わったのですよ」

「お義母(かあ)さまは言いすぎだろ。俺たち付き合ってるわけでもないのに」

「あはははは。冗談だよ。冗談」


 セイは大袈裟に笑っていた。

 俺の反応…そんなに面白いのか?

 その後、セイにカラかわれながらも晩ご飯を食べ進めた。


「ごちそうさまでした!」


 また胸の前でパン。と手を合わせてセイや食材、自然に感謝する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ