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捜査立会人 ~オブザーバー~  作者: 如月いさみ
SNS探偵 天馬

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運命の始まり 1

 日本は……既に日本ではなくなっていた。


 天埜翔は両親の遺体を前に呆然と立ち尽くし拳を握りしめた。未だ燻ぶる車に焼け焦げた匂い。誰もが腫れ物に触るように天埜翔から視線を逸らしブルーシートを被せた両親の遺体を運んでいた。


 唯一人。

 恐らく警察官になったばかりの交番員なのだろう彼だけが天埜翔の前に駆け寄り涙を滲ませて唇を噛み締めた。

「申し訳……ありません」


 申し訳ありません。

 車は坂道でスピードを落とさず坂下の角を曲がり切れずに電柱にぶつかった自損事故。


 本来なら『申し訳ありません』という言葉などでない。

 だが。

 だが。


 天埜翔が駆け付け辛うじて助け出した父親が最期に告げた言葉は

『奴等が……てんかと……』

 であった。


 鑑識が駆け付け最初にブレーキ線が切られている事を発見した。だが、パトカーが到着し降り立った警察官が何かを言うとその場にいた彼らは秘して黙した。


 警察官の階級章は短冊板が一つであったが全てが金色のバッチであった。つまり、国家公務員の警察官……警視正以上と言うことだ。


 その男は翔の横に立ち真っ直ぐ遠くを見たまま

「これは、事故と決まっている。君が何処に訴えても無駄ということだ。警察が犯人を捕まえて送致しても不起訴か無罪だ」

 と小声で告げ

「君は高校生だ……耳を塞いで目を閉じて受け取れるモノを受け取りなさい。それに小学生の弟もいるだろう」

 敵は……強大過ぎる、とそっと耳打ちした。


 父親は救急が『遅れて』駆け付けた時には死亡しており母親は即死であった。


 ネットニュースで流れていた。

 SNSで騒がれていた。


 不法滞在。不法入国。そして、押し寄せる『移民』。

 その人たちを雇う企業や仲介する存在を公に調べ闇に気付いた人々は消され、死は隠蔽される。


 司法も政財界も既に帰化人と言う名の外国からの人間とそこから流れる金に溺れる人間達によって運営されている。日本は島だけを残して人間が入れ替わっていく日本人の浄化が始まっている。


 ……そんな都市伝説……


 天埜翔もネットを見ながら思っていた。

「これって良くある与太陰謀論だよな、信じる奴あたま悪い」


 しかし。

 それがもう与太陰謀論ではなくなっていたことに気付いたのだ。


 父親は不法滞在で仮放免されていた外国人が起こした暴行事件が防犯カメラの映像など全く取り上げられずに無罪となって泣き寝入りをしていた被害者の母親から依頼されて証拠を集めている最中であった。


 それを良しとしない人。つまり、不法移民や海外技能実習生制度などに纏わることで利益を得ている強大勢力。


 そいつらに。

 そいつらに。

「両親ハ消サレタンダ……」


 天埜翔はそう愕然と心で呟きながら正面に立つ唯一人良心に耐えられず口を開いた警察官を見つめた。


 彼の名前は有明正一と言い一週間後に焼香をするために姿を見せて頭を下げた。

 警察を辞めたということであった。


 翔は小学校で父と母の死を知って泣きながら帰ってきたものの今はギュッと悲しみを堪えて座っている12歳の弟・天加を見て一つの決意を固めていた。


 父と母の死の真相を必ず白日の下に晒す。同時に弟が安心して暮らせるようにする。


 その為には。


 翔は有明正一を見ると両手をついて頭を下げた。

「お願いがあります。弟の面倒をお願いします」

 驚いた彼に更に続けた。

「遺産は全て弟に渡します。そして、俺は二度と弟にあいません」


 有明正一は冷静に俯いて座っている翔の弟の天加を見て

「天加君のことは面倒見よう。だが遺産は法定相続通りに分けたほうがいい」

 と笑みを浮かべた。

「綺麗ごとでは生きてはいけない。金はあった方が良い」

 ……君の目的が達せられた時に迎えにくるように……


 驚いて見つめる翔に有明正一は笑むと天加を見て

「おじさんと暫く暮らそう。我慢できるな?」

 と告げた。


 天加は小さく頷いた。

「はい、お、おせ、お世話になります」


 その日の内に有明正一は天加の服やランドセル、そして、身の回りの物を車に入れて立ち去った。


 翔はポツンと一人残されて温かかった家の中で始めてヒンヤリとした空気と孤独を覚えた。


 17歳の運命の転換点であった。

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