捜査立会人 4
一か月後。
講義の真っ最中に捜査立会人として初めての出動依頼がきた。
大学の教養学科の高等数学講義中でちょうど微分積分を解いている最中であった。
講堂の後ろの戸口から一つの影がそっと中へと入り天加の横にスッと座った。
大学の講義なので席順など決まってはいない。
だが、天加は急にヌッと現れた人影にギョッと視線を向けて更に目を見開いた。
「あ、さ……浅見先生」
大学の医務室の浅見慎二が飄々とした表情と姿で横に座り天加に目を向けると
「天埜、来なさい」
と小声で告げた。
「……警察法人の方から君に依頼があると言ってきた」
天加は直ぐに捜査立会人の依頼だと分かったものの
「何故、浅見さんが???」
と戸惑いつつも荷物を纏めてカバンに入れると浅見慎二に先導されて講堂の外へと出た。
数学の講義をしていた教授は浅見慎二を一瞥したものの小さく視線を交わすと何もなかったように講義を続けた。
浅見慎二は天加を連れて大学の正門へ連れて行くと待っていた車の横に立ち窓ガラスをノックした。
「天埜君を連れてきたぞ。一応、俺は大学の医務室に勤務するただの保健師だからな」
使い走りに使うな、と言外に行って天加を見た。
「天埜、行ってきなさい」
天加は頷くと後部座席で待機していた桐谷世名を見て
「捜査立会人の初仕事ですね」
と隣に座った。
「概要を教えてください」
世名は笑みを浮かべると
「ああ」
と短く答え説明を始めた。
事後調査ではなく現場立ち会いなので調書などはない。
まさに『今』起きている事件現場への直行なのだ。
世名は車が走り出すと手帳を出して唇を開いた。
「現場は港区にある赤坂セレスマンションの303号室。その部屋の夫婦の息子で1歳の大森洋介君が風呂場で意識不明で倒れているのを父親の大森洋一と大森君子と隣の本宮敦子の三人が発見して知らせてきたというものだ。大森洋一は帰ってきたところで風呂場で慌てている二人を見て直ぐに洋介君を助け上げて救急に連絡したという話で、大森君子の話では本宮敦子との話に夢中で大森洋介君から目を離していたという話だ」
天加は頷いて
「時々ニュースで流れている少し目を離して子供が風呂にハマってという事故みたいな感じですね」
と呟いた。
「その父親の大森洋一が戻ってきた理由は?」
世名は冷静に
「大森洋一の話では事前に話があると連絡を入れていたそうだ」
と告げた。
「最初に気付いたのが隣人の本宮敦子という事もあり、それまで物音もしていなかったので警察は『幼児の事故』と判断した。だが、近くのマンションに住んでいた田村健という探偵が現場に乗り込み『これは事件で犯人は夫の洋一だ。計算しつくされた事件だ』とビシッと父親の大森洋一を指さしたそうだ」
と告げた。
ビシッとって、と天加は思ったもののそこは沈黙を守った。
つまり、警察の見解と探偵チューバ―の見解が分かれているという事だろう。




