動き出した闇と相棒 2
「ハハッ! まさか、成り代わりが見抜かれた挙句に警察に入れ込んでいた人間まで取り調べられるとは、まさに想定外と言う他ない。検察の人間の返事も『担当案件とならなかったので起訴を止めることはできなかった』とはな……何かが動き出したという事なのかもしれないな」
その人物は小さく呟き目を細めた。
「だが、計画まで見抜かれてはいないはずだ」
……計画さえ見抜かれていなければ、少々の修正で済む……
「まだ判事の伝手はある」
警察。
検察。
そして、裁判官。
じっくりと時間をかけて組織の人間を入れ込んできた。
特に弁護士については弁護士協会の多くが組織の人間で構成されている。
ただの弁護士の集まりである。
だが『弁護士』という肩書に『協会』という名前が付けば公の集団だと一般人は考え、直ぐに頭を下げてくる。
男は息を吐き出すと
「マスメディアの民間放送共同組合もこちらの人間が三分の一いる。これで国民が何か感じても口を封じることが出来る。だが、今回の件を足掛かりに警察の人間を弾き出されたら計画がとん挫する可能性がある」
誰が見抜いたのか、知っておく必要があるな、と手にしていたワイングラスを握りしめた。
それに同じ部屋の壁に沿うように立っていた人物が笑みを浮かべると
「少し、探りを入れてみましょうか?」
と告げた。
男はその人物に目を向けると口角を上げて
「そうだな、芽は早い内に摘むのが良い」
と答えた。
天埜天加が初出動して解決した大森洋介殺人未遂事件は唯の殺人未遂事件ではなく動き出そうとしていた闇プロジェクトの走りであった。
夜の闇の中で様々な人々の思惑が交差し動き出そうとしていた。
事件が起きたのは原口美代子と松田健太の二人が起訴されて二日後のことであった。
一人の男が田町駅近くのカリコ田町マンションの自室で遺体となって発見された。だが、担当の三田警察署刑事課強行犯係長の佐藤美見は現場に奇妙な異質な空気を感じたのである。
被害者の男は中島幸次という名前で発見者は彼を訪ねてきた会社の同僚の3人加藤忠司と杉野公男と河野翔一と、彼らに言われて鍵を開けるために同行した管理人の須藤朋美の4人であった。
その日、彼ら3人とキャンプへ行くという話で待っていても来ない彼を訪ねて凶器の刃物で胸を刺されている被害者を見つけたということであった。
部屋の戸は開いており犯人は戸口から出入りしたと思われた。
別段トリックなどが施されているわけではなかった。
しかし、佐藤美見の部下だが古株の朝井紀夫は被害者の服の裾と靴下に付いていた泥と草に違和感を覚えた。
「係長、これ……どう思われますかねぇ」
美見は遺体の横に屈み手袋をしてズボンの裾と靴下の土と草を手に
「鑑識」
と呼ぶと
「これの採取を頼む」
と指示を出し周辺を見回した。
ソファにテーブル。テレビにキッチンもさっぱりしたモノで観葉植物の一つもなく土と草がつくような状態ではない。
管理人の須藤朋美が不思議そうに
「うちのエントランスにもマンションの外にもそう言うのがつく場所はないんですけどねぇ」
とぼやいた。
エントランスには観葉植物は置いていない。マンションの周囲も砂利が敷き詰められており木々は植わっていないのだ。辛うじて考えられるのは歩道に植えられた街路樹くらいであった。
つまり、殺害場所は別で遺体を移動させた可能性があるかもしれないということだ。
その時、背後で声が響いた。
「それって遺体をここへ運び入れたってことですよね? つまり殺害現場は他で遺体移動トリックに違いない」
彼らの背後でスマートフォンを翳していた青年は美里や朝井紀夫を映しながら
「それくらいサッサと判断して本当の殺害現場を調べるべきでしょう。初動捜査が大切なんですよ」
土と草のDNAを調べて地域判定をするべきでしょ! と告げた。
朝井紀夫と美見は肩越しに振り向きながら彼を目に険しい表情を浮かべた。
二人には長年の経験から遺体とその周辺の状況に違和感がなかったのだ。つまり、変なのは靴下と裾の泥と草だけという印象が強かった。
だからと言って初動捜査を間違えれば迷宮を生むということも分かっていた。が、である。
佐藤美見は立ちがあると
「おい、関係者以外は中に入れるな」
と告げた。
それにスマートフォンを翳した青年は
「おやおや、人気探偵・射場哲二を放り出すなんて……え? もしかして業と迷宮を作ろうとしているんですか~、フォロワーの皆さ~ん」
と告げた。
画面には『警察~』『最近のあり過ぎる事例』などが流れていく。




