動き出した闇と相棒 1
東京都心の一角に独特な形の建物が聳え立っている。
有名な警視庁である。
その近くに警察庁が入っている合同庁舎があり、17階で二人の男が窓の外に広がる夜の東京の町を見下ろしながら話をしていた。
警察官26万人の長である警察庁長官とその補佐をする警察庁次長である。
所謂、警察のNo1とNo2である。
「報告書が上がっていると思いますが、立会人の初出動の件を桐谷から聞きました。血は争えないってことですね。流石、天埜氏の弟ということでしょう」
警察庁次長の島本蓮司が告げた。
「しかし、国家公安委員長も警察法人捜査立会機構とは考えたものですね」
警察庁長官の止々呂美修也はそれに
「警察が政界に対抗することは難しい。特に各県知事に対抗することは自分のクビをかけることになる。各県警本部の監視には公安委員会があり、その任命は知事だ。つまり県警本部の上に知事がいる。だから知事に逆らうには覚悟がいる。ならば外部組織を作り、その上を払って歪みかけた警察捜査に筋を入れるのは間違いではない」
と告げた。
「現在はまだ検察に遠島悠検事。判事に天音暗輝判事。探偵チューバ―には穴吹芹や財前理人。そして、それらを繋ぐ川原家の犯罪書庫レンタル屋がある。誰もが反骨精神を持って権力の忖度なしに司法を守っている。天埜氏を中心に繋がる司法サークルだ」
……だが個人の質に頼っている限りその個人が消えれば一気に事態は変化する……
「だからこそ機構<システム>が必要だ」
天埜翔が頭角を現すまでの司法が酷いモノであった。
警察庁長官が自ら政界の一部に忖度してその関連の事件を隠蔽するように指示を出していた。
検察庁も意味不明な不起訴を『理由は明らかにできない』としたうえで連発し、判事は『断言できない』という理由で無罪を言い渡し続けた。
確かにその中でも必死で抵抗して忖度なしに起訴や判決を行う人間はいた。
それが検事の遠島悠や判事の天音暗輝だ。だがバラバラの状態ではどうしても塞き止めることはできない。
つまり、司法は完全に死んでいる状態だった。
警察も多くの警察官がヤル気を失い上層部に逆らうことはできずに燻ぶり、特定の犯罪者を捕まえず被害者に対して注意を促す形が横行し、挙句にSNSで『事件は全て自己責任なので防犯してください』と呼びかけるところまで堕ちていた。
いや、そうせざる得ない状況にまでなっていたのだ。
止々呂美修也はその頃のことを思い出して拳を握りしめた。
「その起死回生の一矢を放ってくれたのが天埜氏だ。ただ、その反動で野良探偵たちインプレゾンビ探偵どもが現れてしまった。そして、悪知恵の働く者はそれを利用としようとしている」
だが。
そう、だが。
止々呂美修也は不敵な笑みを浮かべると
「だが、ピンチはチャンスだ。これを機に前警察庁長官の腐った流れを一気に断ち切ってやる」
と強く言い切った。
「己の地位を守るためだけに権力に迎合して不正と汚濁に塗れた警察を正義の盾に戻さなければならない」
……その為なら探偵だろうと何だろうと利用する……
「同時に裁判所や検察の中に巣食う権力に迎合し己の欲を満たすために司法の役割を忘れている連中の根源も排除する」
……それが何処の誰でどんな事情の人間かなど犯罪には関係ない……
「犯罪者は逮捕する。それが警察であり何よりも守るべき役目だ。それを捨てた警察は警察ではない! その一翼を担うシステムが警察法人捜査立会機構だ」
権力によって歪みそうな捜査を断ち切るナイフが捜査立会人だ、と付け加えた。
島本蓮司は笑みを浮かべると静かに頷いた。
その同じ夜の闇の中で一人の男が東京駅からほど近い場所に立つタワーマンションの一角から外を見つめていた。




