捜査立会人への誘い プロローグ 10
天加はそんな値踏みをしている世名と坂本蒼矢の視線など気付かず田中岩夫を見下ろして
「じゃあ彼らの家族も貴方と貴方の息子と貴方の別れた奥さんを殺していいですね?」
と告げた。
「特に海津隆夫さんの家族や親友、そして、中田晋さんや佐々木健二さんを除いた残りの二人の家族や友人たちは無条件で貴方の大切なモノや全てを壊してから貴方を殺していいですね?」
坂本蒼矢は突然トンデモナイ事を言い出した天加に慌てて
「おいおい」
と足を踏み出した。
世名は反対にニヤリと笑みを作った。
天加はスッと手を上げると先までと違った冷え切った視線で坂本蒼矢の動きを止めて田中岩夫を見下ろした。
「確かに虐めは許されることじゃない。だからと言って相手を殺して良い理由にはならない。まして関係のない人間を巻き込んで……しかもあんたはその罪を全く関係のない本当の被害者の海津隆夫さんに押し付けて逃げようとした」
……あーだーこーだと言ってもアンタは唯の人殺しだよ……
「自分の罪を他の人に擦り付けた卑怯な人殺し野郎だ。俺が被害者の家族や親友たちに言ってきてやるよ。あんたの息子に同じことして良いってな。そしてあんたの息子にも言ってやるよ。全部全部あんたの父親のせいだ! てな」
田中岩夫は目を見開くと
「な、息子は被害者だぞ!!」
と怒鳴った。
天加は口角を上げて酷薄な笑みを浮かべると
「笑わせるんじゃねぇよ! 彼らの方が被害者だろ? あんたが言った理屈だろ? 彼らにしたら自分の息子殺されてその人間の子供がのうのうと生きてやがる。そういうことだろ?」
と告げた。
「虐めは許されることじゃないがあんたのしたことも許されることじゃない。きっちり罪を償え!」
……こんなことしでかして、あんたが刑務所に入れば息子を誰が守るんだ? あんたがすべきだったのは復讐じゃなくて息子を立ち直らせることだろ! ……
「虐めに心を壊しながらも懸命にこの世界に留まって生きている息子を励まし前に向かわせることだろ!!」
あんたはこんなバカなことをしたせいで息子を守る事すらできなくなったってことだ! と告げた。
「それにあんたの言ってることは息子の復讐じゃなくて『あんな息子を持たされた俺が苦労したから奴らを殺してやる!』そういう身勝手な内容だってことだ! あんたに何か言う権利は一ミリもねぇんだよ!!」
……ちゃんとやったことの責任を取る覚悟もねぇくせに言い訳だけ考えてるんじゃねぇ!! ……
坂本蒼矢は天加の豹変に流石に蒼褪めながら手を掴んだ。
「もう、良いだろ」
田中岩夫は俯いて震えながら
「俺は……俺は……」
と呟いた。
坂本蒼矢は携帯を手にすると担当の所轄へ連絡を入れた。
「山荘ロッジ密室事故の犯人が自白した。直ぐに来てくれ」
そして2、3言葉を返すと携帯を切って天加を見た。
「なるほど」
そう呟き世名を一瞥して
「まあ、お前の見立ては間違っていなかったみたいだな。確かに飲み物に気が回っていなかったし、まさか管理人が犯人だとは俺は想像もしていなかった」
と告げた。
「だが……」
息を吐き出して自身を落ち着かせると二人に目を向けた。
「これで海津隆夫君の汚名も灌げる。それに探偵チューバ―の小和泉治夫についても処理をする」
天加は目を見開くと何時もの表情に戻り、笑みを浮かべた。
「……良かった。本当に良かった」
田中岩夫もまた後悔に涙を流しながら
「本当に、本当に……申し訳ないことをした」
と告げた。




