転換点
山形優一の写真の中でも東都銀行池袋支店に出入りしていたカヤ土建の社員の行動を調べていた島本蓮司が二日後に止々呂美修也に報告を入れた。
ちょうどザイ・カヤとモーリス・チェンの二人を正式に逮捕し松田貴子の殺人及び山形優一の殺人未遂の取り調べがそれぞれの所轄で始まった直後のことであった。
止々呂美修也は警視庁刑事部捜査二課長の浜家一豊と共に会議室に集い島本蓮司と向かいあった。
山形優一は現在意識を取り戻し身体に負担が無いように事情聴取に応じている。彼を襲った人物がザイ・カヤとモーリス・チェンであることは彼の証言からも間違いがなく理由は翔が見つけた写真であることを彼は告げた。
そして彼を突き動かした事件を話したのである。
「俺の妹がカヤ土建から埼玉の西倉土木事務所に移ったアージュ・ベケレという男に襲われたものの警察は事件として持ち合わなかった。どうしても納得がいかなくて西倉を調べていく内にカヤ土建から多くの外国人を時節労働者として安い賃金で雇い入れ使っていることが分かり他の会社でも同じことをしていることが分かった」
つまりカヤ土建は表向き土木会社だが不法滞在者を利用した人材派遣……いや人身売買まがいの事をしていたということであった。
「同時にその労働者が起こした事件を警察が殆ど取り合っていないか揉み消していたことを突き止めてカヤ土建の取締役のアル・カヤを見張っていたら弁護士の大間正明、そして、警察庁長官の岩尾としおが絡んでいることを突き止めた」
不法滞在者が起こした事件が公になるとその人身売買の絡繰りが分かりカヤ土建自体の存続とアル・カヤ自身が逮捕されるということで警察庁長官を抱き込んだのだ。
島本蓮司はその報告をしたうえで大間正明と岩尾としおの銀行口座の履歴と写真の男であるカヤ土建の経理担当のベリル・エスマスが写真の日に操作したデータとカヤ土建とは別に彼の口座の一覧を置いた。
ベリル・エスマスはその日に60万引き下ろしタナカタロウと言う名前で大間正明と岩尾としおに30万ずつ振り込んでいたのである。
また彼の口座には定期的に高額な入金があり、その振り込みは不法滞在者を雇い入れた企業からであった。
島本蓮司は冷静に
「今後はベリル・エスマスの口座に振り込んでいる企業から事情聴取を二課中心に進めてもらえると良いかと」
と警視庁刑事部捜査二課長の浜家一豊を見た。
捜査二課は俗にいう知能犯罪担当である。贈収賄や脱税、偽造通貨などだ。
浜家一豊は笑むと
「ここまでお膳立てをしてもらった案件だ。まして上の圧力が無くなるなら……思う存分させてもらう」
と告げた。
止々呂美修也は頷き
「金をもらって犯罪に加担する人間に警察庁長官の椅子に居座ってもらっては邪魔で仕方がない」
と言い
「国家公安委員長も近い内に変わる。その次期委員長から岩尾警察庁長官退任の許可は貰っている」
と告げた。
浜家一豊はホゥと言うと
「次はお前か?」
と聞いた。
止々呂美修也は肩を竦めると
「俺が警察庁長官の椅子を望んだ時は自力で取りに行く」
と答えた。
「椅子が欲しいわけじゃない。もう現場で警察官や刑事が歯がゆいい思いをして頑張ろうとする人間が立ち去っていくのが耐えられないだけだ」
……俺の大学の後輩で有明という巡査がいたが折角警察に入ったのに4年前に辞めた……
「真面目で正義感の強い奴で期待していたが隠蔽の強制に耐えられなかったんだろう性格的にな。それに同じ事件を長官の指示で隠蔽に動いた先輩も警視正の階級章を置いて警察を去った」
浜家一豊は息を吐き出し
「そうか、筋が強いほど折れやすい。弱いと言えばそれだけだが筋が柔軟で乗り越えたとしても反対に変な形で伸びてしまえば不正を良しとしてしまう警察官になる。人の育成は難しいな」
と告げた。
「だが、先のは冗談としてもお前が長官になるのは悪くないとは思っている」
止々呂美修也は苦く笑って立ち上がり
「俺と島本は松田貴子と山形優一の件と4年前の再捜査があるから大間正明と岩尾としおの方から手をいれる」
と告げた。
浜家一豊は頷き
「ではこちらはカヤ土建とそこから不法滞在者を雇い入れた企業を抑えていく」
と言い
「それにな、カヤ土建が企業からの金だけでなく不法滞在者からも金をもらっている可能性がある」
と告げた。
止々呂美修也は目を見開くと
「それは?」
と聞いた。
浜家一豊は腕を組み
「不法滞在者の多くはその国で金が稼げない時期に日本へ来て難民申請などを繰り返して業と姿を消して日本で稼ぎ自国で稼げる時期に国へ帰るということをしている。彼らからすれば金を払っても日本でそれ以上に稼げば問題がないんだ」
と告げた。
「その抜け道を恐らく利用し不法滞在者からとそれを利用する企業からの両方から金をもらっていると考えて捜査しないと見落とす可能性があるからな」
二課は二課の情報があるということだ。
「不法滞在者は日本で生活が出来なくなると犯罪に走る。それは日本の一般市民にとって不幸だ。得をするのはカヤ土建やそのループを作って金を設けている企業や人間だけだ」
……人に不幸を押し付けて自分たちだけ『綺麗ごと』を言いながら『ただ金儲けだけが目的』の人間を俺は許すことはできない……
「それに警察が巻き込まれてはならない」
止々呂美修也も島本蓮司も笑みを浮かべて頷いた。
多くの地道に仕事をする警察官は不正や隠蔽の圧力に懲り懲りしており反発する時を待っていたのだ。
警察が動き出したころ、天埜翔もまた探偵チューバ―塾を始動させていた。
12名の探偵候補を東京へ呼び寄せ興信所などでも行う調査方法と法律の知識と報告書の作成方法、また警察での事件現場での遺留品採取や捜査方法などを1年かけて教える予定で最初の講義を行っていた。
ただ12名の内の半数は既に個人的に探偵を行っていたり、フリーライターとして知識的なものを持っていたり、何故か検事や判事候補までいたので講義は至ってスムーズであった。
ニュースではカヤ土建の難民申請や技能訓練制度を利用した労働売買に弁護士の大間正明と警察庁長官の岩尾としお、また多くの企業が取引をしていたと流れていた。
大間正明と岩尾としおの取り調べも始まろうとしていることが騒がれていたそんな矢先に大きな事件が勃発し、止々呂美修也から探偵依頼が津村清也を通じて舞い込んだ。
大間正明が遺体となって発見されたということであった。
また他の事件の依頼も重なったのである。




