安らかに眠れ
「城攻めってなんも攻めてないじゃないですか」
「だいたいこういうもんにござる」池
「力攻めは最後の手段。多くの場合は包囲して交渉、調略、我慢大会にござる」
「我慢大会?」
「相手が折れるまで包囲する。そしてだいたいこっちが折れる」
「負けてんじゃないすか」
「兵糧攻めは金がかかりすぎてそんな頻繁にできることではござらん」
「じゃあ我慢できなくなったら力攻めですか? 殺し合いですか?」
「我慢できなくなったら撤退」
「あら平和的」
「城攻めは落とせないことの方がはるかに多いのですぞ。歴史に残るのは主に落城したときというだけで」
「じゃあもし今回相手が開城に応じてなかったら?」
「この兵力差ならば力攻めにござる。城方も準備が整わずにひとたまりもなかったことでしょう。だからこそ城方はあっさり交渉に応じたのです」
やっぱり平和と殺し合いは紙一重なのか。
「私、さっき門を開けさせて騙し討ちするのかと思っちゃいました」
「まさか。同じ織田家の者同士。殺したいわけではござらぬ。それに我らは周辺の地理に明るい者を欲しております」
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孫七郎殿はもう休まれよとのことで城内に寝る部屋が用意された。今日はキャンプのつもりだったから少し肩透かし。
寝具は単なる布の敷布団に着物の掛け布団セット。同じ部屋には私の小姓も布団を敷いた。
ん、おやおや? 孫七郎と万作君。もしやあなたたちひょっとすると例のアレですか?
あなたたちというかもはや私たちなんだけど。
「私たち同じ部屋で寝るんだね?」
探りを入れてみる。
「はい。小姓は護衛や見張りも兼ねておりますゆえ」
ふむ。別にふつうのコトなのか。なんだ、ちょっとワクテカしてしまったじゃないか。
そういえば今日ずっと一緒だったのに彼のこと全然知らない。名前の漢字だってさっき教えてもらったばっかり。
「万作君っていくつ?」
「7つにございます」
「うわ、若いね!」
小3くらいかと思ってたけど、小1くらい? 数え年だから下手すりゃ保育園?
それにしては大人びてるよ。武士の子だから?
「そんな若さで小姓になるの普通なの?」
「主が小さい時に同年代の遊び相手としてお仕えするのはよくあります」
「主が小さくない時は?」
「通常はこの歳では小姓見習いです。正式に小姓となるのは元服前後です」
「なんでそんな早く仕えることになったの? 私がその年のときは自分の世話さえあやしかったよ」
「役目は他の小姓に任せてもよいから近くに置きたいと、孫七郎様におっしゃっていただきました」
「ほぉ~」
それは、それは~。ちょっと夜話しちゃう~? 万作君は美少年でも美少女でも通じる容姿してるしな~。
「それでは明かりを消しまする」
「え、あ、はい」
もう?
「何か他にございますか?」
「いや、うん、大丈夫。あ、明かり高いしね」
いきなり愛人だったの?とは聞きづらかった。
ま、まあいい。話は明日でもできる。
私は床そのもののような固い布団に入り、万作君は明かりを消して自身の布団に入った。
さあ、ぐっすり眠るか。
寝れねえよ。
寝れるわけねえだろ。
2人の関係が気になって眠れねえよ。
今からなんかおっ始めるのかと身構えちゃうじゃん。
暗い中、万作君に尋ねる。
「ちょっと聞きづらいんだけど、記憶を失う前の孫七郎になにかされた?」
エッチなこと。
「なにかとは?」
「いやなんかこう嫌らしいこと?」
「いえ、何もされてはおりませぬ」
「あ、そう」
ま、まあ。まだ小学生だし~、手を出したら犯罪だし~。
「じゃ、寝るか!」
「はっ」
ちょっとがっかりだけどこれで心晴れやかに眠れるぞ。
寝れねえよ。
寝れるわけねえだろ。
戦国2日目やぞ。
昨日から起こったことに対してなんも整理できてねえよ。
仮に転生しちゃったとして元の孫七郎はどうなったんだ?
二重人格みたいな感じで私の中に眠ってるだけ?
いつか孫七の記憶も思い出すの?
んで現代の私はどうなったの? 死んだの? 一時的に意識が過去に飛んでるだけ? いつ戻れるの? 家族にはもう会えないの?
もしずっと明日も明後日もこのままだとして今から始まる戦争、ボロ負けしますけどいいの?
そして考えたくなくてずっとさけてたけど、今年も来年もずっとこのままだとして……。
いずれ孫七郎は、秀次は、若くして切腹させられる。
近い未来の自分の死を意識すると恐ろしくて眠れなかった。
「孫七郎様」
万作君の呼びかけにハッとする。
「あ、あ、な、なに?」
「吐息が激しく聞こえるので何か悪夢を見てらっしゃるのかと」
「い、いやまだ寝てない」
夢じゃなくて現実に怯えてた。
「ちょっと興奮して眠れない。し、死ぬのが怖くて。い、いや将なのにこんなこと言っちゃいけないのかもだけど」
「武将も人の子です。死が怖くないわけありませぬ」
「あ、ありがとう」
「お心が休まるよう添い寝いたしましょうか?」
「ファ!」
「いつものように」
「ファ!」
やっぱりそういう関係じゃないのおおおおおおおおお!
「ひ、ひ、ひいの?」
上手く発音できねえ。
「もちろんでございます」
万作君が私の布団に入ってきた。い、異性と初めて同衾してしまった。いやもう同性だけど。
ふわあああ、万作君いいかほりがするよおおお。抱きしめたいなぁ! でも絶対犯罪だよおお。逮捕されるよおおおお。
「孫七郎様が眠れない時はいつもわたくしを抱きしめて眠ってらっしゃいました」
まごしちろおおおおおおおお! アウトおおおおおおおおおおおお!
「い、いやらしいことしてないって」
「はい。わたくしの嫌がるようなことをなさったことは一度もありません」
同意の上でかよ。
うそつけ絶対パワハラだぞ。セクハラだぞ。主君だから断れなかっただけだぞ。嫌なことは嫌って言っていいんだぞ、万作君。出るとこ出て争うべきなんだぞ。私はそんなこと絶対しないから安心してほしい。
「じゃ、じゃあ、私も抱きしめていいの?」
セクハラなんて絶対しない。そんなふうに考えていた時期が私にもありました。3秒前の私です。
今の私に、現代の倫理観などどれほどの意味があろう。そよ風で吹き飛んでしまうほどペラペラであったわ。
「はい。あなた様が孫七郎様ですので」
優しく彼を抱きしめた。
ふああああああ。やわらかいよおおおお。甲冑の上からとぜんぜんちがうよおおおおお。
私の心はぬいぐるみを抱いて眠るような穏やかな優しい気持ちになっていた。
ペロペロしたいおおおおお。
私は君だけは傷つけないと心に誓った。
食べちゃいたいおおおお。
この世界で君と生きていこうとそう思った。
もう今日死んでもいいンゴおおおおおお。




