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はじめての城攻め

 月が見えなくなったころ、早足で進む私たちは目的地に着いた。先頭の方にいた軍勢はきっと1時間以上前に着いたことだろう。 


「あれが目的地の大留城にござる」

「暗すぎてほとんど見えませんね」

「もう一つの目的地、上条城はあちらにござる」

「暗すぎてほとんど見えませんね」

「両城の距離は半里ほど。今晩この2つを一気に取ります」


2キロ。近い。山には見えないのでたぶんどっちも平城。


「占領するって言ってましたよね? いま中に誰もいないんですか?」


 廃城ってこと? もしくは城兵みんな出兵してる?


「いえ敵方がおります」

「じゃあ攻め落とすんですか?」

「ご安心めされい。小城ですゆえあっという間にカタがつきまする」


 いや費やす時間を気にしてるわけじゃなくて費やす人命をですね……。


「それでは早速下知を下しますぞ」

「え、ちょ、待ってください。着いたばかりじゃないですか」


「我々は着いたばかりですが、先に出発した兵はもう待ちくたびれておりましょう。それに大軍でとどまればとどまるほど敵方に見つかりやすくなりますぞ」

「お、大留(おおどめ)って名前なんですから大軍で留まってもいいじゃないですか」

「まだ敵方ですゆえ。落としてから留まりましょうぞ」


 私はまだ戦国ツアーやってる感覚で殺し合いの覚悟まで完了してない。そりゃそうだ。こちとら昨日まで女子高生やぞ。これで殺し合えたらサイコパスやんけ。


「いま出撃の合図を送りました」

「え、もう? かかれー!とかじゃないんですか」

「ひそかに取り囲む予定ですゆえ」


 


 池田三好隊は明かりもつけずに静かに城に近づいた。

 

 すると城から法螺貝の音が聞こえてきた。城兵に気づかれたのだ。上条城の方からも聞こえてくる。

 

 それでもこちらの軍勢は取り乱すことなくあっという間に城を取り囲んでしまった。


 私と池田さんも続いて大留城の門に近づいた。


 え、いいの? 将みずからこんな近づいて。城攻めなんでしょ?

 

 門の付近ではこちらの将兵と門の上に立つ敵方の兵がやり取りをしていた。


「そこにおわすのはいずれの部隊にござるか!?」

「我々は羽柴方、池田 勝入(しょうにゅう)の手の者! 城主殿にお取次ぎ願いたい!」

「しばしお待ちくだされ!」


 あ、いきなり殺し合いスタートじゃないのね。まずは話し合い。基本だね。


「しょうにゅうって誰だろう? お父上の親戚ですか?」

「私にござる」池

「え、失礼しました!」


 また名前増えたわあ。


「かまいませんぞ。まぎらわしいのが悪いのです」

「いっぱい名前ありますね」

「剃髪してからの名前にござる。つまり坊主としての名前」

「お坊さんだったんですか?」

「坊主のふりをしているだけ。武将にはよくあることですぞ」 

「へえ~」

「紀伊守の名前も実はすでに元助に譲ってしまっておりまする。本当は勝入斎が今の呼び名でござる」


 紀伊守は襲名制だったのか。そっか役職名だからか。自称だけど。  



 城門の上では松明に火が灯され、武将が顔を出した。


「我こそは大留城城主、村瀬作左衛門。本日はこのような大人数で夜分遅くにいかようなご用件でござろうか?」


 敵対しているのは明らかなのに肝の座った口上だった。しかもあくびまでする大胆不敵さ。

 そりゃたしかに寝てたろうけどさ。鎧もまだ着てないし。寝ぼけてないよね? 暗いからこちらの兵数がわからないのかな。敵方からの使者くらいに思ってる? 万を超える使者ですけど。扱いを間違えたらそちらは死者になりますけど。

 お願いだから穏便にすませて。


 こちらサイドも火を灯して明るくしてから、池田さんみずから前に進んで声を張って答えた。


「我は池田 勝入斎(しょうにゅうさい)。約束もなしに突然夜分こんな大勢で押しかける非礼をお詫び申しあげる」

「おお、勝入斎殿。久しゅうござる。ご壮健で何より。今の紀伊守殿はお元気であられるか?」


 知り合いやんけ。


「うむ。現紀伊守は今も元気に上条城の方を囲んでおるわ」


 げんきいのかみと元気をかけたのかな? 

 違うか。


「やはり上条城もでござるか…」

「2つの城を取り囲んでおる兵は総勢3万」

「3万!」


 池田さんさらっと数字を盛ってる。まだ第2隊も着てないから1万4千です。


「こんな小城に3万でござるか」

「どうであろう。ちと数が多いが、客人として迎えてはもらえぬだろうか」

「それは条件次第にござる」

「三千貫文」

「三千貫文?」

「城を明け渡し、我々にくみすれば近隣の柏井に三千貫文の領地を保証する」



 隣のバンサク君に小声で聞く。


「三千貫文って現在の貨幣価値でいくら?」

「……?  三千貫文にございます」

「だよね。三千貫文だよね」

「とんちでございますか?」

「いや忘れて」


 あほなこと聞いてしまった。




「三千貫文は誰のお墨付きにござるか? 羽柴殿でござるか?」

「この後ろにおわす羽柴筑前殿――」

「なに! 筑前殿がここにおられるのか?」

「筑前殿が跡継ぎの三好孫七郎殿が保証いたす」


 え、ちょっ。私にとつぜん話題のスポットライトを当てるのはやめて。そんな保証できませんけど!


「おお、羽柴殿ではなく跡継ぎ殿でござったか。お初にお目にかかる」

「今この時より羽柴孫七郎と名乗られるゆえ羽柴殿でも間違いござらん」


 しかも勝手に名字まで変えてる。


「はっはっは。そうでござったか」

「三千貫確約の証文もすでにここにある。今日の日付で孫七郎殿の花押(かおう)が入っておる」


 

 私はバンサク君に尋ねる


「かおうってなに?」


 石鹸とかのしかわかんない。


「言わば記号化した署名です。文書にお墨付きを与えるものです」


 要はサインね。

 

 いやサインした記憶ないけど。



 池田さんは小姓さんから紙を受けとって高く掲げた。証文が見やすいよう小姓さんが松明の火を近づける。


「あ、近づけすぎるでない! 燃えちゃうだろう!」池


 明るくして見せたところでこんな紙1枚で誰が信用するんだ?


「跡継ぎ殿の花押なら信用いたそう」


 騙されないで村瀬さん! それ絶対偽造文書ですよ! その距離から見えないでしょ!?


「我々の味方になってくださるか?」

「承知いたした。開城いたそう。勝入斎殿と孫七郎殿が命と領地を保証してくださるなら」


 私なにも保証してませんけど!

 



 大留城の門がゆっくりと開いてくる。


 門を開けちゃダメ! これは騙し討ち! 城主、城兵皆殺しにされる流れ!


 開けちゃらめええええええ!





 こうして大留城と上条城は平和裏に開城した。


 私たちは仲間を増やした。

 

 やったね!

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