月明かりの道しるべ
今の2人の状態を二人陣羽織と命名してキャッキャウフフな気分になってる私。
「いつでも眠っていいからね。支えてるから」
「孫七郎様と同じ馬に乗って、孫七郎様に体を支えられてもらうなど、緊張してとても眠れませぬ」
「遠慮しなくていんだよ~」
「いえ眠れませぬ」
バンサク君は寝た。
「主君に体を支えさせて眠る家臣など初めて見ましたぞ」池
「かわいいですね」
「信頼されている証でしょうな」
仲良かったんだね、孫七郎とバンサク君。
「そうなんですね」
池田おじさんと小声で会話する。
夜で景色を堪能できないから暇つぶしが会話しかない。
そういや今は松明もなしに移動してるからめっちゃ暗い。月の明かりだけが道しるべ。今日はちょうど半月。上弦の月。いや、下弦の月だっけ? とにかく右側の月。
「あの、いま暗いですよね。松明使わないのはもったいないからですか?」
明かりつけるの高いって言ってたし。
「いえいえ見つかってしまうからですぞ。闇夜に松明など敵に居場所を教えているようなものです」
「ああ、なるほど。敵の間者に見つかってしまうのですね」
「暗闇の中での明かりというのは思いの外遠くからでも見えるものです。真っ暗闇であればろうそくの火でさえ1里先から見えますぞ」
マジ? 4キロ先から見えんの?
「はえ~」
すっごい。
「明かりをつければ間者を介さずとも小牧山城から直接発見されてしまいます。我らが夜に出陣したのは敵に隠れて進軍するため。しばしご辛抱くだされ」
「あ、別に我慢はしてないです。ただあの月なんですけど…」
「今宵はきれいな半月。上弦の月ですなあ」
「けっこう低い位置にあるじゃないですか。あれってこれから高く上がっていくんですよね?」
「いえ沈んでいきますぞ。上弦の月はお天道様を追いかけていきますゆえ」
月の光っている側に太陽がある。太陽は左から右に流れて沈む。右側の月は太陽を追いかけていま沈むところなのだ。
いまやっと中学理科の授業を思い出した。
上弦の月は夜起きている時間の月。下弦の月は寝ている深夜の月。だからどっちか迷ったら上弦と言っておけばだいたい当たる。
「ということはまずくないですか?」
「お気づきになってしまわれましたか…」
「あとどれくらいで月は見えなくなりますか?」
「あと長くて一刻程度」
2時間。
「そのあとは?」
「暗闇にござる」
「今日はここをキャンプ地としますか? いえ、野営地に」
「まだ城を出たばかりですぞ」
「今日の目的地まであとどれくらいです?」
「普通に歩くなら一刻半」
3時間。
「なんかだんだんとみんな進む速さ速くなってません?」
「お気づきになってしまわれましたか…」
「しかしご安心めされい。月明かりがなくとも星明かりがござる」
「星明かりでも歩けるんですか」
「かなり頑張れば」
「もし星空が雲でおおわれたりしたら」
「雲でおおわれないことを祈りましょう」
「無理に星明かりなしで進軍したらどうなります?」
「死人がでるでしょうな。手が届く距離でも見えなくなりますゆえ」
見えないのに死人(視認)とはこれいかに。
言ってみたかったけど笑い事じゃなさそうなのでやめた。




