ぐへへ
いやー長かった。先頭が出てからこんなに待たされるとは。
でも確かに考えてみたら道がそんなに広くないからなあ。歩道くらいの幅だったり、よくて1車線と路肩くらいの幅だったり。4人が横に並んでその列が縦に2メートルおきだったら1mあたり2人。2万人が移動するなら先頭から最後尾まで10キロだ。普通の歩く速度なら2時間半はズレる。
私と池田お義父さんは第一隊14000人の後方あたりでスタートした。助さんはすでに先頭近くで出発している。鬼武蔵さんは私たちのあとから第二隊で出発する。
小姓さんの馬に続いて、私とお義父さんの馬が並んで進む。
私の小姓さんがあくびをした。まだ少年だから暗くなったら眠いのだろう。かわいいね。
私のお隣の池田さんもあくびをした。年取るとほら、早寝早起きになるからね。
「もう普段なら眠っている時間ですなあ」池
いや寝るの早くね?
楽田城への道すがら教わったのだけど、私が田んぼだと思っていたところには麦が栽培されていた。今が収穫期でそれから稲を植えるらしい。ということは今はたぶん春。
今の日付を聞いたら卯月の6日と言っていたからたぶん春。卯月がいつかわかんないけどたぶん春。
古文勉強しとけばよかったけど、卯月は1年の何番目の月ですかと聞いたら今年なら4番目と言ってたからたぶん春。
1年の何番目の月ですか、なんて英語の授業でしか聞いたことない日本語や。
そして今年なら4番目とかいう発言に4番目じゃない年もあるんかいってなって混乱してみりあは考えるのをやめた。
春ならば日没は6時から7時の間かな。
んで暗くなってからの体感時間で考えて今は8時から9時くらいだと思う。
それが言いたかっただけ。
寝るには早いよね。
「みなさんそんなに早く寝るんですか?」
「さよう。夜に明かりを灯すのはは高くつきますゆえ」
「じゃあ兵士のみなさん今みんな眠いんですか?」
「兵は夜の行軍に備えて昼寝を取らせております。かくいうそれがしも孫七郎殿とわかれてから寝ておりましたが」
出陣前の将は忙しいと聞いたけど、たしかに寝るのも大事。
前の小姓さんがウトウトしだした。落馬しそうで危なっかしい。
そっか。ずっとわたしについてたから寝てないもんね
「これ、危ないぞ。万作」
池田さんが彼に注意した。
あ、彼、バンサクって言うの? これだけ世話してもらって名前聞いてなかったわ。
バンサク君は池田さんの声が耳に入ってないのか、体が揺れたままだ。
「これ、万作」
反応しない。
「バンサク君?」
「は、はい!」
私が呼びかけると少年の体はバネじかけのように起き上がった。
主の声だから飛び起きたのだろうか。
「馬の上で寝ると危ないよ」
「申し訳ありません!」
「こちらこそごめんね。お昼寝する時間もなくて」
「いえそれがわたくしの務めですゆえ」
「ねえ、一緒にこの馬乗らない? 私の前に。そしたら眠っても大丈夫だから」
「そんな! 恐れ多いことです」
「いいじゃん、二人乗りしてみようよ」
2ケツしようぜい。
「主君と同じ馬に乗るなど…」
「よいではないか、よいではないか」
悪代官が町娘を襲うようなセリフだがこれを言ったのは私ではなく私の隣の中年おじさんである。
「そなたの体はまだ小さいゆえ馬の負担も少なかろう」池
「で、では」
池田おじさんの説得に応じて少年は2ケツした。
私の前に接触して座る美少年。なんだか興奮してきたな。
ここにありったけのセクハラを敢行する。
彼の背中から体に腕を回して手綱を握る。
ああ、もうこの可愛い子をこのまま抱きしめちゃいたい。ちょっと手綱操作する振りしてギュッとしてみよう。えい。
美少年はきっと柔らかい肌をしているのだろうなあ、ぐへへと思っていたがゴツゴツ、ガッチャガッチャしていた。当たり前だ、鎧着てんだから。
これではセクハラ味が足りないと、私は自分の陣羽織の前の結び目をほどいて少年の体の前で再び結ぶ。
「ま、孫七郎様! こ、これは」
「これはシートベルト」
「しーとべると?」
「落ちないため。眠っても落ちないためだから。安心して眠っていいよ。ぐへへ」
最後、ぐへへが言葉に出てしまっていた。通報案件だと思った。




