厠でやっちゃったんですか?
「どしたん? 黙っちゃって。話聞こか?」
「ほっといてください」
恥ずかしいんですよ。
「小便終わった?」
「今はウンコのとき! 集中してるんです。話しかけないでください」
恥ずかしさを別にしても、実際踏ん張る時に話すと気が散るからそっとしておいてほしい。
「俺と孫七郎は同じ便器で連れションする仲だったってことを話したかったんだけど、またおいおいでいいか」
「話しかけてくださいよ!」
「あ?」
「ほっといてって言われてほっといていいですか! 違うでしょ! かまってほしいの合図でしょ!」
「なんだよ、おなごか、お前は」
「さあお話しあれ。気になってウンコに集中できない」
「俺と孫七はな、厠で仲良くなったんだ」
「厠でやっちゃったんですか?」
「やってねえよ」
やれよお。
「もうずいぶん昔にな、どこの城だったか、俺が漏らしそうな時に厠の前でガキとかちあったんだ。まだ元服前のな。そいつも漏れるらしくてな、どちらが先に入るかってなって、そいつは俺よりずいぶん年下だし、俺の顔にびびって譲ってきたんだよ。でも先に厠に着いてたのはそいつだし、『遠慮しねえで先入れ』っつっても頑なに入らねえから、『じゃあ一緒に入んべ』ってそいつを体ごと抱えて厠入ったのよ」
「そして無理やりしたんですか?」
「だからやってねえつってんだろ」
「いや無理やり連れションしたんですか?」
「ああ、それはそう」
「その少年が孫七郎ですね?」
「そうだよ、お前だろうが」
「それでどうだったんですか」
「それで並んで1つの便器に小便してたんだけどよ、お前はビビってたくせに小便始めたら明らかにこっちの小便にわざと自分の小便ぶつけてくんのよ」
子供時代の孫七郎と考えることが一緒だった。
「こっちがよけても追跡してくんの。なんか小便の追いかけっ子みたいになって俺は笑っちまった。いったいどんな遊びなんだよ。そんでおとなしく小便を交差させたままにしたんだよ。『バカ、低い位置で当てろ。高いとこで当てたら飛び散るだろうが』とか言い聞かせながらよ。そしたらお前がつぶやくんだよ。『我ら生まれた日は違えども願わくば同じ日に死なん』って」
「それ桃園の誓いですね」
「そうだよ。だから俺も『え、お前なに突然義兄弟の契り交わしてんだよ?』ってなるじゃん。そしたら『なんか小便合わせてるのが刀合わせてるみたいで』って」
発想力ぅ...ですかねぇ...。
「んで、あとは
『あ、そうなんだ。刀合わせて義兄弟の契りを交わす想像したんだ? ふーん。桃園の誓いなんだ?』
『申し訳ありません。無礼なことを申しました』
『じゃあ、もう1人要るな。いずれ3人でやろうな』
って感じよ」
「え、3人目がいるんですか? もう1人誰か登場してくるんですか?」
「いやいねえな」
「なんだ、ちょっと期待しちゃったじゃないですか」
「すまんな。でもいつかもう1人加えて3人で連れションして義兄弟になる機会があるかもな」
「そしたら厠の誓いって名前になっちゃいません?」
「そうなるな」
「もしくは小便の誓い」
「そうなるな」
「んでそっから仲が良いと?」
「ああ、俺は気に入ったわけよ。鬼の顔した大の男にあんだけビビってたのに意味不明な仕掛けをしてくるその肝っ玉をよ」
「んで、お二人は肉体関係はあったんですか?」
金玉も気に入ったんですか?
「もうちょっと仲良くなってく過程を聞けよ」




