味噌汁
池
「この飯に味噌汁をかけるのにも能力が問われるのですぞ」
私
「どんなですか?」
池
「必要な量の味噌汁を1回でかけること。足りなかったからと2度かけしたら、毎日かけているのに加減もわからぬのかとなるのです」
私
「へえ~」
森
「それ北条家の話ですよね」
私
「北条家? 関東の大名の?」
それとも鎌倉殿の?
池
「そのとおり。名君であった北条氏康が息子氏政の味噌汁2度かけを見て嘆いたと聞いておりまする」
私
「呼び捨てにしちゃって良いのですか?名を」
池
「会ったこともない他国の武将ですゆえ」
私
「たしかに」
池
「それで氏康いわく『味噌汁も測れれぬやつが人の心を測れるわけがないと』」
私
「ふむふむ」
池
「それを聞いてそれがしは思いました」
私
「なんと?」
池・森
「「関係ないよな」」
池
「と」
私
「あら」
森
「気持ちを汲み取る力が味噌汁でわかるかよ」
私
「それもそうですね」
池
「氏康は後継ぎのその体たらくを見て北条家が息子の代で終わると予想したそうですが実際にはどうでしょうか。氏政は領地を広げ、現在北条家の最大版図を実現しております」
私
「あてにならないんですね」
池
「若い時の逸話など結果次第でどうとでも解釈されまする。お館様だってお若い時はうつけものと呼ばれておりました。今では人を欺くためにやっておった言われておりますが、それについてある日それがしは聞いてみたことがありまする」
私
「ご本人に?」
池
「左様。おそるおそる聞いてみたところ、別にそんな考えはなかった。ほんとにうつけであっただけと。そのおかげで家督を継いだ頃はまわりが敵ばかりで大変だったと。こっそり教えていだだけました。それがしもよくそんなことを尋ねたなと今では思いまする」
森
「それ初めて聞きましたよ」
池
「秘密にしておくつもりじゃったが今ならもうよかろう」
私
「ほかにもなんかないんですか?そういう小話。誰のでもいいので」
池
「たとえばまた氏政のことですが、彼はあるとき麦畑で麦刈りが行われているのを見て『あの取れたての麦を今日の昼飯にしよう』と言ったとか」
私
「それの何が問題なんです?」
森
「お前農家出身じゃねえのかよ。それも忘れてんのか」
私
「忘れてるんです」
池
「麦や米は収穫後にすぐ食べられるものではござらん。干して、脱穀せねばなりませぬ」
私
「ああ、なるほど」
池
「それで大名としての能力に疑問が持たれたと。それを聞いてそれがしは思いました」
私
「関係ないなと?」
池田さんは首を振る。
池
「たしかに、と」
森
「そりゃそうだ」
私
「あら」
池
「武士は戦にだけ長けておればよいのではござらん。戦士である前に統治者なのでござる。この世の民の大部分が農民。その生活や仕事に無頓着な大名はどれだけ戦が強かろうと、領地を上手く治めることができずにいずれ滅びまする」
私
「なるほど」
池
「大名と言えど納豆が藁に入っているのを見たことがない者、1度も自分で取り出したことがないような者はきっとそれを作った者にも無関心。お忘れであるならどうかこれより覚えていってくださりませ。我らの食すもの、着ているもの、鎧兜、刀までほぼすべて民が作りしものであることを。それがあなたを名君といたします」
私
「わ、わかりました」
森
「期待してるぞ。戦は俺にまかせろ」
私
「はい」
池
「いやーなんかいい感じの話になってしまったのう。味噌汁の話、ワシが始めてみたものの特にオチがないからどうしようかと思っとったんじゃ。あれ、ワシなんで真面目な話しとるんじゃろう?って。いやー、いやですなあ、説教臭いオヤジは。あ、そうだ。味噌汁をちょうどかける大会を開催いたしましょう」
私
「もう飲んでしまいました」




