第9話 ラクラミキオアラの部屋
この作品は、私が載せている別の作品『未希へ届け!』の中に出てくる作中小説です。気に入っているのですが、『未希へ届け!』は長編なので、かなり読み進めないと『幻想の森のラクラミキオアラ』まで到達しません。なので、独立した別作品としても載せておくことにしました。楽しんで頂ければ幸いです。
「さっき言ってたキャビネットが見当たらないけど、どこにあるの?」
ツルモが訊くと、ラクラミキオアラは微笑んでこう言った。
「そりゃそうだよ。だって、お爺さんが魔法で作ったものって、基本的には人間には見えないのよ。その杖なんかは、お爺さんがわざと人間にも見えるようにしたから、見えてるだけなの。ちょっと待ってね、今、心の中でお爺さんに語りかけて、ツルモ君にも本やキャビネットが見えるようにしてもらうから。物の方を変えるんじゃなくて、ツルモ君の方に魔法をかけてもらうね。そうすれば、物が増えるたびにいちいち魔法をかけてもらわなくて済むから」
「そんなことも出来るんだ?じゃあ、それでお願いしますっ!」
ツルモは、自分自身に魔法をかけてもらうという人生で初めての体験をすることになり、ドキドキしていた。
ラクラミキオアラは静かに目を閉じた。精神を集中して、お爺さんに語りかけているようだ。
三十秒ほど経ったとき、ツルモの身体全体が眩い光に包まれた。三秒ほどで光は消えた。その直後、ツルモは「うわわっ!!」っと大きな声をあげた。目の前に突然、可憐さを極めたような乙女チックな部屋が出現したのだ。部屋と言っても、四方に壁や窓、入口などは無く、森の中に四メートル四方くらいのカーペットが敷かれていて、その上に白いベッドや猫足の付いた硝子戸付きのキャビネット、一人用の白い木製の椅子などがセンス良く配置されていた。椅子も猫足デザインのもので、全ての家具はアンティーク調のデザインで統一されていた。ベッドの上には、ふわふわした感じの白いクマのぬいぐるみと、ピンク色のウサギのぬいぐるみが並べて置かれていた。本物のヒグマが出る森の中で見ると、なんともシュールな光景だ。でも、めちゃくちゃ可愛らしい!とツルモは思った。
「これ、パジリク絨毯っていう有名な絨毯のデザインをお爺さんが魔法でコピーして作ったんだって。『どうじゃ、わしのセンス、最高じゃろ。色だけはおぬしに合わせて変えておいた』って、お爺さんが自画自賛してたの。キャハハハ!パジリク絨毯って、二千五百年前に作られたものらしいけど、描かれている馬とかトナカイがリアルじゃなくて結構可愛いでしょ?こんなこと言ったら怒られるかも知れないけど、ちょっと下手上手な感じで描かれているところがいいのよね。愛嬌があって最高!あと、この色合いを見てよ!白とピンクのペルシャ絨毯って、作るのが難しくてあんまり無いんだって。『これはレアじゃぞ』ってお爺さん、すっごいドヤ顔してた。キャハハハハハ!」
「この部屋って、絨毯が完全に平らになっているけど、森の中なのになんでこういう風に出来るの?」
「あ、それもね、お爺さんの魔法なの。この絨毯って、地面に直接敷かれているわけじゃなくて、実は少し浮いているのよ。浮いた状態で平らに魔法で固定されているから、でこぼこしてないの。すごいでしょ?」
そうラクラミキオアラに説明されて、ツルモは絨毯と地面の境い目のあたりを見た。確かに少し浮いていた。
「あとね、この絨毯も含めて、部屋にある物は全て、人間には見えないだけじゃなくて、触ることも出来ないの。ぶつかることもなくて、例えばベッドが置いてある場所を人間は普通に通り過ぎることが出来るのよ」
「へえー!面白いね!それにしてもこの部屋、いかにも女の子の部屋って感じで、素敵だなあ」
「そう?えへへ…ありがと!でもね、普段はもっとめちゃくちゃ散らかってるんだよ?お爺さんから『今度はツルモという少年が、おぬしのところに向かうぞ。おそらく、日曜日くらいじゃろ』って話を聞いてから慌てて片付け始めて、昨日の夜、やっとここまで仕上げたの。キャハハハハ!」
「えー?そうなの?散らかってる部屋も生活感があって全然いいと思うけどね!」
「えー?何度も遊びに来てる仲ならそれもアリかも知れないけどさ、さすがに初回から『生活感、全開ですっ!』みたいな部屋は見せられないよ!私だって一応、女の子なんだからさ!キャハハ!」
ツルモはラクラミキオアラの言葉を聞いて、「一応どころか、全宇宙で最も女の子らしい女の子でしょ!!可愛すぎるぞっ!!」と言いたくなったが、なんとか我慢した。




