第8話 黒歌鳥の道案内
この作品は、私が載せている別の作品『未希へ届け!』の中に出てくる作中小説です。気に入っているのですが、『未希へ届け!』は長編なので、かなり読み進めないと『幻想の森のラクラミキオアラ』まで到達しません。なので、独立した別作品としても載せておくことにしました。楽しんで頂ければ幸いです。
二人はラクラミキオアラの棲んでいる場所に向かって歩き始めた。ツルモは悪路を進むために再び杖を使い始めた。杖の不思議な力で落ち葉が集まり、でこぼこした地面を歩きやすく整えていく様子を見たラクラミキオアラは、「へえ~!その杖、あのお爺さんが貸してくれたやつでしょ?すごいね!!」と驚いていた。もっともラクラミキオアラ自身は妖精なので、ふわりふわりと空中をゆっくり飛ぶような、浮遊するような感じで移動しており、地面がどのような状態であろうと関係無さそうだった。ラクラミキオアラが先行し、後からツルモがついていく形で二人は順調に森の中を進んでいった。
「ねえ、ラクラミキオアラ。俺が近づいてきているのが分かったから迎えに来てくれたって話だったけど、イワセザールのときは分からなかったの?一人で三時間歩いたってあいつ言ってたし、そのときは迎えに行かなかったんだよね?」
「うん。全然、分からなかった。前日に、お爺さんから『イワセザールっていう名前の少年が明日、お前のところに行くからの。友達になるがよい。ホホホ』って言われてたから、来ることは知っていたんだけどね。イワセザール君は気配が薄いというか…まあ、相性の問題だね、多分。イワセザール君と相性がいい妖精というのも、きっとどこかに存在するのよ。そして、その妖精はイワセザール君の気配に敏感だったりするの」
「なるほど…。ん?てことは、俺と君は相性がいいってこと?」
ツルモが嬉しそうにそう言うと、ラクラミキオアラは振り返らずに背中を向けたまま、こう言った。
「し、知らないけどさ!…ほら、読書とか、趣味は合うじゃん?だから、少しは相性いいんじゃない?少しは!…たくさん相性がいいかどうかは、まだ分からないんだから、調子に乗っちゃダメだからね!」
ツルモは内心、なんて可愛い奴なんだと思ったが、少し微笑んで「はい!調子に乗らないよう、気をつけますっ!」とだけ言って、歩き続けた。楢の木の枝葉の間から、暖かな陽射しが降り注いでいた。三メートルほど前を浮遊して進むラクラミキオアラの白いワンピースにも陽射しが斑に当たり、白く輝く部分と陰になり薄紫色に見える部分が複雑な動きで常に入れ替わっていた。全体が常に白く輝いているよりもずっと美しいと思いながら、ツルモはルノワールの『ぶらんこ』という絵を思い浮かべていた。
美しい鳥の囀りが、ツルモを更に幻想的な気持ちにさせた。「素敵な鳴き声だなあ」と言うと、ラクラミキオアラが「あの鳴き声は黒歌鳥のオスね。オスは真っ黒で、メスはグレーなの」と教えてくれた。ラクラミキオアラとじゃれ合うように飛んでいる小さな鳥もいた。「その鳥は何ていう鳥?」と訊くと、「この子は四十雀。可愛いでしょ?」と言って横を向き微笑んだ。
休憩のあと再出発してからちょうど一時間ほど経ったとき、ついにラクラミキオアラはツルモに向かって「ここよ!ここが、私が普段棲んでいるところ!素敵なところでしょ?」と言った。確かにそこは、今まで歩いてきた美しい森の中と比べても、格別に美しいところだった。大きな橅の木が無数に生え、それらの幹は分厚い苔で覆われている。それぞれが唯一無二の曲線を描き伸びている枝と根は、複雑に絡み合いながら全体として美しい調和を見せていた。ラクラミキオアラがひと株のすずらんとして生まれた場所がここなのだと思うと、ツルモはとても神聖な場所に立っているような気持ちになった。




