第7話 プリンとリスと、ラクラミキオアラ
この作品は、私が載せている別の作品『未希へ届け!』の中に出てくる作中小説です。気に入っているのですが、『未希へ届け!』は長編なので、かなり読み進めないと『幻想の森のラクラミキオアラ』まで到達しません。なので、独立した別作品としても載せておくことにしました。楽しんで頂ければ幸いです。
「ああ、『世界一クラブ』ね!俺が通ってる小学校でも大人気だよ。俺も読んだことあるし」
ツルモがそう言うと、ラクラミキオアラは目を丸くして、冷蔵庫に美味しいプリンが入っていることを、夜の歯磨きを終えた後で妹に教えられた姉のような顔になった。ようするに、『もっと早く言いなさいよ!!』という顔である。
「ちょ、ちょっと!!ツルモ君!君、『世界一クラブ』読んだことあるのっ!!?」
「え?あ、うん。そりゃあるよ。超人気シリーズだからね」
「それならそうと、もっと早く言ってよ〜ツルモ君っ!!!ツルモ君のバカッ!」
ラクラミキオアラは、空まで届きそうなくらいテンションが上がっていた。『バカッ!』と言ってはいるが、声色や表情は、怒っていないどころか喜びが爆発している感じだった。
「で、エルモ君!!『世界一クラブ』の、どのお話を読んだのっ!?」
ラクラミキオアラはテンションが上がり過ぎて、ツルモとエルモを混同し始めていた。もしかしたらそのときのラクラミキオアラには、ツルモは赤い毛玉みたいな可愛いアイツに見えていたのかも知れない。
「お、落ち着いて!ラクラミキオアラ!俺はエルモでもクッキーモンスターでもゾーイでもないよ!」
「あ、ごめんごめん!つい、興奮しちゃって。で、どのお話を読んだのっ!?」
「『100%フラれる大告白!?』だね。めっちゃ面白かったよ」
「あー!はい、はい!一ノ瀬渉君と、星野美咲ちゃんが出てくるやつね!!ああ〜!もう、思い出しただけで…また涙が出てきちゃう…!渉君がフラれ続けていた理由が、まさかあんなに素敵な理由だったなんて!!本当にナツキ・オオゾラ先生って天才…いや、天才なんてレベルじゃない!!神様ッ!!私にとっては神様ッ!!」
「分かる!俺も本を読んで泣くことって滅多に無いんだけど、あれはホロっときた!」
「ツルモ君!君、なかなか分かってるねぇ〜!」
「うん。でもさ、一ノ瀬君はちょっと気が多いよね!三年間で三回も告白してるんだよ?俺だったら、最初にフラれた人をそんなに簡単に忘れられないよ」
「なるほど。私思うんだけど、それまでの一ノ瀬君の失恋は、運命の人じゃない相手だったんじゃないかな?あのお話って最後まで全部読むと、一途に一人の人を想い続けることって本当に素敵だな、って思えるよね」
「そうだね。一ノ瀬君も最後はそこに行き着いた感じだよね」
ツルモとラクラミキオアラは、『世界一クラブ』の話で盛り上がって、しばらく夢中で話し続けた。話が一段落したとき、ツルモは大事なことを思い出した。
「あっ!…ねえ、ついここで話し続けちゃったけど、俺、君が棲んでいる場所にも行ってみたいなあ」
「え?そうなの?来てくれるなら大歓迎だけど、ここから一時間くらいかかるし、そこまで行くと帰りは森の中だけでも三時間歩かないといけないことになるよ?大丈夫?」
「うん!もう十分、休憩出来たから大丈夫!行ってみたいよ!本棚とか、あるの?」
「本棚っていうか、硝子戸付きのキャビネットだよ。猫足が付いているやつ、あるでしょ?クルンって可愛くデザインされた脚が付いている木製の家具」
「ああ!椅子とかでもあるよね」
「そうそう、それ。私、猫足のデザインが好きなの。それに森の中だから、脚が付いている方が安心でしょ?地面がぬかるんだりしたとき。あと、雨が降っても大丈夫なように硝子戸付きのやつをお爺さんにお願いして魔法で作ってもらったんだけど、実用的な意味はあんまり意味は無かったみたい」
「え?どういうこと?」
「森の中にずっと置いてたらどっちにしろ水が中に入ったりしちゃうでしょ?だから、お爺さんがキャビネットそのものに魔法をかけて、水が全く入り込まないようにしてくれたの。でも、デザインが好きだから全く意味が無かったわけじゃないんだけどね!」
「なるほど!君って着ている服もすごくオシャレだし、なんだかいろんなこだわりを感じる人だよね!その眼鏡も、めちゃくちゃ似合ってるよ!」
ラクラミキオアラは、光に当たると薄いピンク色にも見える、薄紫のとても細い金属フレームの丸眼鏡をかけていた。
「えへへ…ありがとう!友達のリスにも言われた。似合ってるよって」
「えっ!君、やっぱりリスと友達なの!?俺が想像していた通りだっ!もしかして、ウサギとか鹿とも友達じゃない?」
「うん、そうだよ。でもあの子達は食べ物探したりとか結構忙しいから、ずっと私の相手をしてくれるわけじゃないの。だから一人のときは本を読んでるってわけ」
ラクラミキオアラは『寂しいときは』とは言わずに『一人のときは』と言ったが、きっと寂しさを感じるときもあるのだろうとツルモは思った。そして、これからはラクラミキオアラが寂しさを感じないようにしてあげたいと、あらためて思った。




