第10話 物語を愛するラクラミキオアラ
この作品は、私が載せている別の作品『未希へ届け!』の中に出てくる作中小説です。気に入っているのですが、『未希へ届け!』は長編なので、かなり読み進めないと『幻想の森のラクラミキオアラ』まで到達しません。なので、独立した別作品としても載せておくことにしました。楽しんで頂ければ幸いです。
「ツルモ君!とりあえず、その椅子に座ってよ!遠慮しなくていいからさ!」
ベッドにちょこんと腰掛けたラクラミキオアラにそう促されたツルモは、森の中を歩いてきたせいでズボンが汚れていることを気にして、
「いや、俺は立ったままでいいよ!こんな素敵な椅子とか絨毯を、汚しちゃったら悪いから!」と言った。するとラクラミキオアラは「それは大丈夫!この椅子とか絨毯って、お爺さんが魔法で作ったものだから、汚れたりしないの。だから、すごく綺麗でしょ?森の中で使ってたら、普通はこんな状態を維持出来るわけないじゃん?これは魔法の効果なのよ」と説明した。
「え!そうなの?確かに、どれも新品みたいに綺麗だよね。…じゃあ、遠慮なく、座らせてもらいます…」
そう言ってツルモは恐るおそる、椅子に腰掛けた。
「ツルモ君、そんなことよりこれ、見てよ!!」
そう言ってラクラミキオアラはキャビネットの扉を開け、背表紙を揃えて綺麗に並べてある『世界一クラブ』シリーズの本を見せた。
「おお〜!すごいね!!めちゃくちゃ集めてるじゃん!!」
「えへへ…すごいでしょ?私だってね、全部タダでお爺さんから貰うほど図々しくないんだよ?家具とかも貰ってるし、このままじゃさすがに悪いと思って、『お爺さんのお仕事で、何かお手伝い出来ること無いですか?』って訊いたの。そしたら、森に棲む鳥さんたちの合唱コンクールの司会とか、川に棲む魚さんたちの水泳大会の記録計測係とか、ヒグマさん達の重量挙げ大会のメダル授与係とか、いろんなお仕事をさせてくれるようになったの。まあ、ちょっとしたアルバイトみたいなものね!」
「ど、動物達って、そんなことしてたの?全然気がつかなかったよ!!」
「そりゃそうよ。みんな、人間には気づかれないように、こっそりやってるからね。キャハハハハ!…とにかくね、そうやって健気に…自分で言うことじゃないか!まあ、いいや!健気に働いて、集めた『世界一クラブ』なのでありま〜す!キャハハッ!あ、でもね、最初の五冊くらいは、普通にタダで貰っちゃったやつ!」
そう言ってラクラミキオアラは並べてある『世界一クラブ』の中の一冊を取り出し、とても愛おしそうな表情で表紙を見つめた。きっといま彼女の心の中では、かつて読んだ本の中の物語が想い起こされ、きらきら輝きながら駆け巡っているのだろうとツルモは思った。
「ねえ、ツルモ君。本って…物語って、本当に素敵だよね。物語を読むと、自分の人生が何倍にも膨らんでいくような気がするの。知らない世界を冒険したり、恋をしている登場人物の切ない気持ちに自分を重ねてみたり…物語がもっている可能性って、無限だと思う!」
ツルモはラクラミキオアラの話を聴きながら、『物語が素敵だっていうのはもちろんその通りなんだけど、今の俺はそれ以上に素敵な存在に出会ってしまった直後なので、物語の素敵さについて語られても、正直、頭に入ってこない…!』と思っていた。
「そ、そうだね!物語って本当に素敵だよね!!アハハハ…!」
「…?ツルモ君、なんか変!大丈夫?」
「もちろんだよ!大丈夫!この通り!!正常ですっ!」
「…あんまり正常に見えないけど、まあいいや。」




