第5話 出会い
この作品は、私が載せている別の作品『未希へ届け!』の中に出てくる作中小説です。気に入っているのですが、『未希へ届け!』は長編なので、かなり読み進めないと『幻想の森のラクラミキオアラ』まで到達しません。なので、独立した別作品としても載せておくことにしました。楽しんで頂ければ幸いです。
森に入り歩き始めてから二時間ほど経ったとき、ツルモは『一度休憩しないと、無理だ!』と思い、座れそうな場所を探した。ちょうどよい倒木があったのでその上にへたり込み、バッグから水筒を取り出してゴクゴクと勢いよく水を飲んだ。
「ぷはー!…やっぱり俺はイワセザールに比べて体力が無いな。情けないぜ、まったく…」
そう呟いて手の甲で額の汗を拭い、水筒をバッグに戻そうと横を向いた、そのときである。
「ツルモ君!」
ツルモは自分を呼ぶ声を聞いた。遠くではない。耳元と言ってもいいくらい近くから突然呼ばれたので、ツルモは心臓が止まりそうなくらい驚き、肩がビクッと跳ね上がった。その声は極めて純粋で可愛らしい音色と、何か面白いいたずらを思いついてニヤニヤしているような小悪魔的な音色が完璧な配分で混ぜ合わされた、とてつもなく魅力的な声だった。振り返って後ろを見ると、純白のひらひらしたワンピースを着た少女が両腕を後ろに回して身体を少し斜めに傾け、立っていた。声と同じように、純粋さの中に小悪魔的な雰囲気がほんのり漂っているその笑顔に、ツルモは一瞬で吸い込まれた。そして、見た瞬間にその少女がラクラミキオアラであると確信した。
「あっ、ごめん!驚かせちゃった?」
ラクラミキオアラはそう言って、キャハハハと陽気に笑った。
「わたし、ラクラミキオアラ。君、ツルモ君だよね?今日は来てくれてありがとう!よろしくねっ!」
そう言ってラクラミキオアラは手を差し出した。ツルモは「よ、よろしく!」と動揺しながら返答し、汚れていた手を慌ててシャツの裾で拭い、同じように手を差し出して握手をした。ラクラミキオアラの手は、小さくて温かかった。
「あと一時間くらい歩かないと、会えないと思っていたんだけど…」
「うん!本当はもっと奥に棲んでいるんだけどね。私もお爺さんと同じで、ちょっと不思議な能力をもっているから、君が遠くから近づいてきているのが分かったの。分かっているのにふんぞり返ってただ待っているだけなんて、何様なのよって感じで最悪じゃん?だから、私の方も歩いて迎えに行こうと思ったの」
ツルモはラクラミキオアラの言葉を聞いて、この子は思っていた通りの、とても心の綺麗な子だと確信した。
「そうだったんだ?わざわざ迎えに来てくれて、ありがとう!」
そう言って視線を少し下に向けたツルモは、ラクラミキオアラの足首のあたりに小さな擦り傷があることに気づいた。
「ちょっと!君、怪我してるじゃん!」
ツルモが驚いてそう言うとラクラミキオアラは、
「あ、ほんとだ!これくらい、全然大丈夫だよ!歩いてるときに、枝が当たったんじゃない?キャハハハ!」と笑った。ツルモは急いでバッグから絆創膏を取り出し、ラクラミキオアラの傷の上に貼り付けた。
「すずらんの妖精に絆創膏を貼って効果あるのか分からないけど…多分、あるよね!本当にごめんね。俺のせいで、こんな怪我させちゃって」
ツルモがそう言うと、ラクラミキオアラは「キャハハハハハ!確かに、妖精に絆創膏って、なかなかシュールだよね!ツルモ君のせいじゃないから、ほんと、気にしないで!」と言って笑った。そのときラクラミキオアラはツルモの腕にも擦り傷があることに気づき、「ちょっと!君も怪我してるじゃん!大変!絆創膏、一枚ちょうだい!」と言って、ツルモが手に持っていた絆創膏の箱から一枚取り出して、ツルモの傷口に貼り付けた。
「ありがとう…!君って、優しいんだね」
「優しいとかじゃなくて、当たり前でしょ!」
ラクラミキオアラは、絆創膏がしっかり貼り付くように指で強めに撫でたあと、ツルモの顔を見上げてそう言った。




