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第4話 会いたいという想い

この作品は、私が載せている別の作品『未希へ届け!』の中に出てくる作中小説です。気に入っているのですが、『未希へ届け!』は長編なので、かなり読み進めないと『幻想の森のラクラミキオアラ』まで到達しません。なので、独立した別作品としても載せておくことにしました。楽しんで頂ければ幸いです。

 土曜日の夕方、約束通りツルモはイワセザールの家に出向き、杖を受け取った。

「ツルモ、杖とお爺さんの道案内があるとはいえ、何が起きるか分からないから気をつけてね」

「ありがとう、イワセザール。気をつけるよ」


 その晩、ツルモは寝る前に部屋の窓を開けて、夜空に浮かぶ月を見上げた。『ラクラミキオアラ…どんな女の子なんだろう。もしかしたら彼女も今、読書を終えて月を見上げたところかも知れないな。深い森の奥で、人間のような姿になって彼女は毎晩、読書をするのだろう。立派な角をもつ鹿が本を覗き込むときだって、あるかも知れない。するとそれにつられて、キツネやウサギ、リスも覗き込む。ラクラミキオアラは、「ねえ、ウサギさん。ここの台詞、とっても素敵だと思わない?」なんて訊いたりする。ウサギはリスと顔を見合わせてから、一緒に頷くのだろう。やがて夜が更けてくるとラクラミキオアラは、本に(ぶな)の木の葉の(しおり)を挟み、そっと閉じて、お爺さんが魔法で作ってくれた切り株のテーブルの上に、大切そうに置くのだろう。彼女は物語の余韻にひたりながら、すずらんの姿に戻って月に見守られながら静かに眠りにつくのだろう…』ツルモはそんなことを考えながら、優しい月の光に照らされていた。『明日、君に会えるのを楽しみにしてるよ!』月に向かってそう言ってから、ツルモはベッドに向かった。


 翌朝、目を覚ましたツルモは丈夫な綿のズボンを穿き、伝統的な刺繍が施された麻のシャツを着て、杖を握りしめて森へ向かった。よく晴れていて、雨の心配は無さそうだった。まだ若いのに杖を持っていたら道行く人達に奇異の目で見られるかと思っていたが、そうでも無かった。みんな、他人の持ち物など気にしていないのだなとツルモは思った。

 森の入口まで着いたが、お爺さんの声は聞こえてこなかった。焦ったツルモは、なんとなくそうした方がいいような気がして、杖で地面をコツンコツンと強めに叩いてみた。すると、

「おっ、おお…おぬしがツルモかね。イワセザールから話は聞いておるよ。話しかけるのが遅くなってしまって、すまんの。うたた寝しておったわい」という声が心の中に響いた。心の中に声が響くというのはもちろんツルモにとって初めての体験で、とても不思議な感じがした。ツルモは「ありがとうございます。今日は道案内、お手数おかけしますがよろしくお願いします!」と丁寧に挨拶した。その挨拶は普通に声に出して言ったのだが、お爺さんにはちゃんと聞こえたようだった。

「なかなか礼儀正しい少年じゃの。ホホホ。よろしい。それでは、さっそく出発するがよい」

 お爺さんに促されて、ツルモは森の中へ入っていった。イワセザールが言っていたように、杖で地面を突くと、枯れ葉が集まって塊になり、道無き道の窪みは次々と埋められていった。「これなら確かに歩いていけそうだ」とツルモは安堵した。

 途中で大きなヒグマに遭遇してツルモは驚いたが、「杖を高く掲げて、ゆっくり振るのじゃ」というお爺さんの声が聞こえてきたので、その通りにすると、ヒグマはおとなしく去っていった。

「ラクラミキオアラ…待っていてくれ。俺は必ず、君を笑顔にしてみせる。君のお気に入りの話し相手になって、読書をもっともっと楽しいものにしてみせるよ!」ツルモは心の中でラクラミキオアラにそう語りかけながら、険しい森の中を進んでいった。途中で木の枝先が腕を引っ掻き、少しだけ血が出た。しかしツルモはそんなこと全然気にならなかった。ラクラミキオアラに会ってみたいという気持ちだけが、彼の心を満たしていた。

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