第3話 ツルモの決意
「いや、その必要は無いんだよ」
ツルモの要請に対して、イワセザールはきっぱりとそう答えた。
「必要は無い、って⋯どういうこと?」
「俺との会話や俺の落書きに満足しなかったラクラミキオアラは、『君の友達で、読書とか絵を描くことが好きな人っている?女の子でも男の子でもいいんだけど』って訊いてきたんだ。つまり俺は不合格なので、他の子を連れて来いってわけさ。ハハハ」
「彼女は別に、そんな偉そうな言い方はしてないでしょ。そんな風に言ったら可哀想だよ」
「まあ、そうだね。とにかく俺はそのときに、『ツルモっていう、ちょうどいい友達がいるから、今度連れて来るよ』って言ったんだ。そしたら彼女、『連れてくる⋯って、もしかして、君もまた来る気なの?あのね、すっごく悪いんだけど、そのツルモ君って人、一人だけで来て欲しいな』って」
「えっ。そんなこと言ったの?ラクラミキオアラ」
「うん。俺が『なんで?』って訊いたら、『本の話で盛り上がったりすると思うから、私とツルモ君だけで盛り上がって、君だけ除け者みたいになったら、悪いじゃん』って。優しいのか酷いのか、分からない子だよな!」
「アハハハ!めっちゃ面白い子だね!」
「それでね、ツルモに伝えておくねって約束して、俺は再び杖の力と、幻聴のように聞こえてくるお爺さんの案内に頼りながら、三時間歩いて戻ってきたんだ。そしてその晩、再び夢の中に現れたお爺さんに向かって『ツルモに杖を貸しちゃってもいいですか?』って訊いたら、『もちろんじゃ。おぬしはラクラミキオアラのお眼鏡に叶わなかったようじゃの。ホホホ』って」
「アハハハ!それ、言われたとき悔しかった?」
「いや、そうでもないよ。会った瞬間から、ラクラミキオアラは俺とはあまり合わないような気がしたし」
「え?なんでそう感じたの?」
「なんていうか⋯あの子、頭の回転が速くてキレッキレな感じなんだよ。俺じゃ手に負えないよ」
「アハハハ!いいねえ!ラクラミキオアラ。なんか、挑戦したくなってきた⋯気に入ってもらえるかどうか。ワクワクしてきた」
「それなら良かったよ。君ならきっと、仲良くなれると思う。いつ行くつもり?今度の日曜日あたり?」
「うん。そうする。気合入れて朝、出発する!杖は今、イワセザールの部屋にあるんだよね?土曜日の夕方くらいに受け取りに行っていい?」
「うん、いいよ。なんだか、俺もワクワクしてきた。杖を持って森に入ったら、すぐツルモの心に声を響かせて道案内をするって言ってたよ。お爺さん」
「おお!それなら安心だね。ああ〜、早くラクラミキオアラに会いたいなぁ!」
「俺の予感だけど、めちゃくちゃ君の好みだと思うよ!アハハハ」
「日曜日って、何日だっけ?」
「えーと、確か七日じゃなかった?」
「七日か⋯日本という国では、一年に一度、七月七日の夜だけ天の川を渡って会うことができる、オリヒメとヒコボシのロマンチックな伝説があると聞いたことがある。七は、とてもロマンチックな数字なんだ」
「相変わらずロマンチストだな、ツルモは」
「なあ、俺達の使っているルーマニア語では、すずらんって単語は『小さな涙』って意味も持っているだろ?なんて素敵なんだろうな、言葉ってやつは⋯。俺は決めたぞ、イワセザール ! ラクラミキオアラが、小さな涙すらも流さないよう、めちゃくちゃ楽しい話し相手になって、彼女の孤独を全て吹き飛ばしてみせるッ!」
「⋯君、まだ会ってもいない人によくそこまで夢中になれるね⋯」
「俺は、そういう人ですっ ! 」
胸を張ってそう言い切ったツルモを見て、イワセザールは楽しそうに笑った。




