表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
占いの館で彼女を奪われ、異世界で王族の婚約者にされたので、僕は必ず取り戻す  作者: 播磨 颯太


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/43

36. 卯の刻の覚醒──二人を結ぶ声

アデン国 パール城 ニヒルの部屋 卯の刻(朝6時ごろ)


暗い室内。天蓋付きの大きなベッドの上で、のぞみは身じろぎもせず天井を見つめていた。


昨夜の出来事が脳裏に焼き付いて離れない。


――地震が来る直前、ニヒルの手が、私の両手首を押さえつけていた。


薄暗い燭台の光の中、男の冷たい視線。重くのしかかる圧。


そして、あの瞬間。


――ズズンッ!!


突如として襲った激しい揺れ。天井のシャンデリアが悲鳴を上げるようにきしみ、壁に飾られた豪奢な絵画が床に落ちた。


その隙に、のぞみは咄嗟に身を捩り、ニヒルの手から逃れることができた。


しかし。


「……戻ってくる。」


のぞみは、布団の端をぎゅっと握りしめた。


あいつは戻ってくる。


大地震で城が騒然となり、ニヒルは部屋を出て行った。しかし、今夜の婚姻の儀のことを考えれば、必ずまたこの部屋に帰ってくるはずだ。


その時、今度こそ、あの男に抗う術はないのかもしれない。


――でも、なぜ昨夜、あのタイミングで地震が?


ふと、のぞみの思考が過去へ遡る。


あの時、ベッドの上で必死に抵抗しながら、のぞみは心の中である名前を呼んだ。


――ゆう君!


すると、その瞬間、あの地震が起こった。


偶然? それとも……?


「……まさか。」


のぞみは自らの手を見つめた。


マム。


数日前、一騎打ち戦の最中、のぞみは密かにマムのもとを訪れていた。


あの時、マムは微笑みながら、のぞみの額に自分の額をそっと重ねた。


「のぞみ様、きっとお役に立ちます。」


あの時、確かに何かが流れ込んできた。温かく、不思議な感覚。


もしかして、あの時授かったものが……?


のぞみは、ゆうがジロームと戦ったあの一騎打ちを思い出す。


馬にさえまともに乗れなかったゆうが、赤い炎をまとい、剣を振るだけでジロームを吹き飛ばした。


――あの時、私はニヒルに肩を抱かれていた。


その瞬間、ゆうはそれを見ていた。


あの瞬間、ゆう君は「怒り」によって、自分では持っていないはずの力を引き出した……?


「……もしかして。」


のぞみの脳裏に、ある仮説が浮かぶ。


もしかして、ゆうもマムから何かの能力を授かっていたのではないか?


そして、それが発動するのは、ゆう君が私の危機を感じた時?


だとすれば――


私が、ゆう君に危機を伝えられれば、ゆう君は意のままに超常的な力を使える?


「……でも、どうやって?」


のぞみは考える。


そうだ。自分には今、マムから授かった不思議な能力がある。


「できる……私なら、できる!」


のぞみの胸が高鳴る。


婚姻の儀と初夜の儀が行われるのは今夜。


ニヒルの妻となるなんて、絶対に嫌だ。


私の心も、体も、すべてゆう君のものだから。


のぞみの脳裏に、ゆうと結ばれた甘い夜がよみがえる。


栂池高原スノボ旅行の夜。


あの優しく、熱く、愛おしい時間。


――ゆう君しかいらない。


のぞみは決意する。


自分の意思を、ヘルメスの力でゆう君に伝える。


そして、ゆう君の力を呼び覚まし、この地獄から抜け出す。


静かな部屋の中、のぞみは瞳を閉じた。


――ゆう君、聞こえる?


その頃、ゆうの部屋 卯の刻


――静寂。


わずかに揺れる天蓋のカーテン。


ゆうはゆっくりと目を開けた。


天井を見つめながら、昨夜の出来事を思い出す。


――あの地震は、何だったんだ?


幸い、この部屋にはほとんど被害がない。ベッドも崩れていないし、家具も無事だ。まるでこの部屋だけが守られていたかのように。


そして……


「……ん……」


ふと、横を見ると、カオリがゆうの腕に頬を寄せたまま、静かに寝息を立てていた。


昨夜の地震の後、彼女はゆうから離れなかった。


「怖いです……ゆう様、離さないで……」


普段は凛々しく毅然としたカオリが、まるで幼子のように震えていた。


ゆうはその背中をそっと撫でながら、落ち着くまで抱きしめてやった。


――それにしても、あの地震は何だったんだ?


異様な揺れだった。ただの自然現象とは思えない。


あの瞬間、何かが――


ピリリ――


「……!」


突然、頭の中に響いた。


鋭く、鮮明な音。昨夜の地震の時と、まったく同じ感覚。


ゆう君……


「の、のぞみさん?」


はっきりと聞こえた。


のぞみの声だ。


錯覚のはずがない。のぞみの声を聞き間違うはずがない。


――私。のぞみ。


「のぞみさん……!?」


ゆうは飛び起きる。隣で寝ていたカオリが小さく寝返りを打つが、それどころではなかった。


のぞみが、今、自分に語りかけている――!?


――私はマムから能力を授かったの。遠く離れていても、こうして意思を伝えられる力。ゆう君に届いている?


「届いてる……!ちゃんと聞こえるよ、のぞみさん!」


声に出しても、のぞみには届かないのかもしれない。でも、必死に叫ばずにはいられなかった。


――よかった……ゆう君、聞いて。あなたは、マムから何かの能力をもらっている。


「え……?」


ゆうは息を呑んだ。


マムから、能力を?


――ゆう君は、自分では気づいていないかもしれない。でも、私は確信してるの。あなたは、“私が危機だ”と思った時、信じられないほどの力を発揮するのよ。


「僕が……?」


――一騎打ち戦の時、ジロームを馬ごと吹き飛ばしたでしょう?あれは、普通の人間の力じゃない。そして、昨夜の地震も。あの時、私はニヒルに――


言葉が一瞬途切れる。


しかし、ゆうの胸の奥に鋭い怒りが湧き上がった。


――私は、ニヒルに襲われそうになっていた。


「……ッ!!」


拳を握る。


まさか、のぞみさんが――


――その瞬間、地震が起こった。私が『助けて』と心で叫んだ時に。偶然なんかじゃない。ゆう君の力が発動したのよ。


「僕の……力……」


言われてみれば、確かにそうだ。


ジロームを馬ごと吹き飛ばした時も、あの瞬間、のぞみさんがニヒルに肩を抱かれていた。


ゆうは、あの光景を見て――


「許せない」と思った。


そして、力が溢れた。


昨夜の地震も、のぞみさんが「助けて」と思った瞬間に起こった。


まさか、本当に……?


――だから、ゆう君。この力を使いこなして。あなたなら、できる。


のぞみの声は、まっすぐに響く。


「僕なら……」


のぞみを救える?


「できる……!絶対に!」


自分が今まで謎に思っていたことが、一気に繋がった。


この力を意のままにできるなら――


「本当に……できるのか?」


脳裏に蘇る光景。


一騎打ち戦の準決勝。剣を振っただけで、ジロームが馬ごと吹き飛ばされた。あの時、確かに自分は何かを解き放った。さらに昨夜——ほんの一瞬、のぞみの身に迫る危機が伝わった時、地震が起こった。


(あの力……マムの与えた力……)


それを意識的に使えれば、ニヒルを葬り去り、のぞみを助け、現世へ帰ることができる。


ベッドの上で膝を立て、手のひらを見つめたまま、そっと目を閉じる。そして、のぞみのことを考えた。


あの夜、怯えた声で自分を呼んだのぞみ。

必死で助けを求める、あのか細い声——


「ゆう君……たすけて……」


瞬間、指先が熱を帯びる。


ボウッ——


闇の中に、かすかな黄色い炎のような光が揺らめいた。


「……いける」


ゆうは確信した。これは、のぞみを救うための力だ。


ベッドの上から、勢いよく立ち上がる。


その時、隣で微かに布が擦れる音がした。


カオリが、ゆうの動きに気づかず、まだ眠っていた。美しい顔は穏やかで、かすかにゆるんだ唇からは、静かな寝息が漏れる。滑らかな絹のパジャマが月光を反射し、ほのかに光る。


(……悪いな、カオリ。でも、俺にはやるべきことがある)


ゆうは静かに息を整え、決意を新たにした。


今日——一騎打ち戦の決勝。


相手は、ニヒル。


二日前の狩り。

ニヒルは大猪をたった一太刀で仕留めた。鋭く、迷いのない一撃。あれを見た瞬間、自分が勝てるはずがないと絶望した。


だが——


今の自分は違う。


手のひらに、のぞみを想うたびに灯る黄色い光。それが意味するものを、もう理解している。


ゆうは拳を握りしめ、静かに呟いた。


「待ってて、のぞみさん」


窓の外、夜が白み始めていた。


そしてその瞬間、

のぞみとゆうの間に生まれた“見えない絆”が、

自分達の運命を静かに動かし始めていた。


ただ──その黄色い光は、あの時ゆうが見せた青と赤の炎とは、どこか違っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後までお読みいただきありがとうございました! ブクマ・ポイント評価お願いしまします!

のぞみとゆうの前作もぜひお読みください!

のぞみとゆうの物語 ~こんな恋をしている二人が羨ましい

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ