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占いの館で彼女を奪われ、異世界で王族の婚約者にされたので、僕は必ず取り戻す  作者: 播磨 颯太


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32. 再会の庭──隠された手と揺れる心

アデン国 パール城 中庭 未の刻


黄金色の陽が、西の空に傾き始めていた。お茶会も半ばを過ぎ、貴族たちの会話は少し緩やかになり、菓子皿の上のマカロンも数を減らしている。ゆうは、まだ変化のない自分の顔を手鏡でこっそり確認しながらも、内心は焦っていた。


(未の刻が過ぎれば魔法は解ける…! それまでに、のぞみさんの側に行かないと…!)


そんな時だった。のぞみの従者ヒメンが場を見渡し、穏やかに告げた。


「皆さま、しばし席替えをいたします。新たな会話を楽しむため、ぜひ異なる方々とお話しくださいませ。なお、王族席には二名までお座りいただけます。王族席を希望される方はいらっしゃいますか?」


王族席——つまり、のぞみの隣。


「……!」


ゆうの心臓が一気に跳ね上がる。こんな好機を逃すわけにはいかない。


「は、はいっ!!!」


思わず即座に手を挙げた。


「……!?」


周囲の貴婦人たちが驚いたようにゆうを見た。特に、両隣にいたカーハとモンイーは目を丸くしている。


「まあ、トキュー様ったら、積極的ですこと…」

「ちょっと意外ね…」


それもそのはず。今までゆうは、ひたすらたどたどしく場に馴染もうとしていたのに、突然大胆な行動に出たのだから。


しかし、ゆう以外にも手を挙げた者が四名いた。


(5分の2……!? 当たるかどうか、微妙な確率…!)


ヒメンが銀盆を持ち、そこには小さなくじが五つ並べられている。


「では、公正にくじ引きといたします。当たりを引かれた二名は、王族席へご案内いたします」


一人目の婦人がくじを引く——当たり。


「おめでとうございます。どうぞお席へ」


ヒメンが微笑む。残る当たりは、あと一つ。


二人目、三人目——外れ。


(……きた!! 残るは僕と、もう一人!!)


ゆうは、祈るように手を伸ばし、くじを引く。ゆっくりと開くと——


「……!!」


隣の婦人が「ああっ……」と悔しそうにため息をついた。


(え、もしかして……)


ゆうは恐る恐るくじの先を見る。そこには、アデン国の王族の家紋が——!


「よっしゃああぁ!!!」


思わず普段のゆうの声で叫んでしまった。


「…………」


「…………」


お茶会の場が、一瞬にして静まり返る。貴婦人たちの視線が、一斉にゆうに集中した。ヒメンですら、一瞬まばたきしたほどだった。


(しまったああぁぁ!!!)


ゆうは慌てて、咄嗟に咳払いをし——


「オ、オホホホホホ!! ごめんあそばせ! あまりの嬉しさに、つい……!」


貴婦人の優雅な笑い方を見よう見まねで披露した。


「……」


カーハとモンイーが微妙な顔をしている。


(……大丈夫……バレてない……はず……!!)


「では、どうぞお席へ」


ヒメンの促しに、ゆうは何とか動揺を抑え、小走りでのぞみの元へ向かう。


3日前の裁判以来、のぞみの側に寄ることができた。


(心臓が、やばい……!)


すぐ隣にいるのに、のぞみはトキューがゆうだとは知る由もない。


「では、お二人とも、自己紹介をお願いいたします」


もう一人の当選者、ヒープ家のアナが優雅に微笑んだ。


「ヒープ家のアナと申します。光栄にも王族席をご一緒できますこと、大変嬉しく存じますわ」


優雅に一礼し、のぞみを見つめる。


(……お、おおお……お嬢様ってすごい……!)


負けじと、ゆうも貴婦人らしく振る舞わなければならない。


「あ、えっと、わ、わたくしは……」


(やばい、名前なんだっけ!?)


「あっ、トキューと、申し、申し上げまする……!」


「申し上げまする?」


アナが訝しげな顔をする。


(ヤバい、これじゃあ時代劇だ!!)


「いえ、その……王族席に座ることができ、とても……めちゃくちゃ……いや、ものすごく光栄ですのことよ!」


「……?」


のぞみとアナが、少しだけ不思議そうな表情をした。


(終わった……)


すると、のぞみが優雅な笑みを浮かべた。


「アナ様、トキュー様。ようこそ、王族席へ。私はアデン国の、のぞみと申します」


その声を聞くだけで、ゆうの胸は締めつけられるようだった。彼女は、こんなにも堂々と微笑んでいるのに——このままでは、ニヒルに奪われてしまう。


(絶対に、絶対に助ける……!)


ゆうの手は、そっとテーブルクロスを握り締めていた——。


テーブル上には香り高い紅茶が注がれ、ほのかに花の香りが漂う。その中で、のぞみはまるでこの場に生まれながらにしていたかのように、上品に微笑みながら振る舞っていた。


しかし、のぞみはまだトキューがゆうであることに気づいていない。


(どうやって、のぞみさんに僕だと気づかせればいいんだ…)


目の前のティーカップを持ち上げながら、ゆうは考え込んでいた。下手に「僕はゆうだ」などと口走っても、この場の貴婦人たちは彼を異端者扱いし、即座に侍女たちに報告するだろう。今朝、自室に戻ったとき、従者のカオリが悲鳴を上げ、衛兵を呼びかけようとしたことを思い出す。


(のぞみさんに直接、小瓶を渡しても飲んでくれるわけないし…)


いきなり「これを飲めば現世に戻れる」などと言えば、怪しまれるだけだ。それどころか、毒だと疑われてもおかしくない。


悩むゆうの耳に、ふとアナの声が届いた。


「そういえば、のぞみ様とニヒル様の馴れ初めについて、ぜひお聞かせいただきたいわ。」


周囲の貴婦人たちも興味津々といった表情で、のぞみに視線を向ける。


(そんなの…のぞみさんが本当のことを言えるわけないじゃないか)


ゆうは息を呑む。のぞみは一瞬、わずかに困惑したように視線を落としたが、すぐに微笑み、作られたような優雅な声で口を開いた。


「ニヒル様とは、ある宴の折にお会いしました。その時、私がうっかり袖を引っかけてしまったのですが、ニヒル様がすぐに助けてくださって…それがきっかけで、お話をするようになったのですわ。」


その言葉に、貴婦人たちはうっとりとため息をついた。しかし、ゆうはその表情の奥に、ほんのわずかな悲しみが滲んでいるのを見逃さなかった。


(違う…僕たちは令和の時代から、突然この世界に連れてこられたんだ…)


ゆうは心の中で呟く。


このまま黙っていてはいけない——何か、のぞみにヒントを与えなければ。


「ふふ、トキュー様はどうなのかしら?どのようにして旦那様と?」


アナが微笑みながら尋ねた。


(…チャンスだ!)


ゆうは少しぎこちなく頷き、意を決して話し始めた。


「僕が…あ、いえ、わたくしが、主人と知り合ったのは——毎朝、同じ馬車に乗っていたのがきっかけでございます。」


「まあ、毎朝?」


「ええ。最初は、特に意識していなかったのですが…ある日、ふと気になるようになりまして。それからは、彼が乗ってくるたびに、わたくしは自然と目で追ってしまうようになりました。」


「まあ、ロマンチックですわ!」


「ええ…ですが、ある日、その方が馬車に現れなかったのです。」


「まあ!」


「わたくしはとても心配になりました。また会えるのだろうか、二度と会えないのではないか…と。」


「それは…さぞかしお辛かったでしょう?」


「ええ…ですが、何日かして——帰り道の階段を上がっていると、その方が、そこに立っていてくれたのです。」


「まあ…!」


「わたくしは感動いたしました。そして、その時、ついに互いの名前を交換したのです。」


トキューの話を聞いていたのぞみの心臓が高鳴る。


(…え?まって?これって…)


話の流れが、まるで自分たちと同じ。毎朝の電車、突然のインフルエンザによる別れ、再会、名前、そしてLINEを交換した瞬間——


(こんな偶然、あるわけない…!まさか、トキューさんって…)


「ト、トキュー様、その方は…最初になんて仰ったのですか?」


震える声で、のぞみは尋ねた。


トキューは少し微笑みながら、優しく言った。


「——『お帰りなさい。ずっと待ってたの』と。」


その瞬間、のぞみに衝撃が走る。


(間違いない…この言葉…私がゆう君に初めてかけた言葉…)


のぞみは、そっとテーブルの下で、誰にも気づかれないようにトキウの手を握った。


!!


(この温もり…この手の感触…間違えるはずがない…)


涙が滲む。


(ゆう君…私を助けに来てくれたんだ…!)


アナがのぞみの変化に気づく。


「のぞみ様、どうかなさいました?」


のぞみは急いで微笑みを作った。


「いえ…トキュー様のお話が…とても感動的でしたので…」


その言葉を聞いたゆうは、のぞみが自分の正体に気づいてくれたことを確信した。そして、のぞみが自分の手をぎゅっと握ってくるのを感じ、胸がいっぱいになる。


(のぞみさん…やっと気づいてくれた…!)


「トキュー様も、どうかなさいました?」


アナの問いに、ゆうは必死に誤魔化す。


「い、いえ…昔のことを思い出して…つい…」


しかし、のぞみはさらに手を強く握る。


(絶対離さない…ゆう君…!)


二人の間に流れる静かな熱。今までの苦しみと不安を超えて、ようやく出会えた二人は、テーブルの下で静かに手を重ねながら、お互いの存在を確かめ合っていた。

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のぞみとゆうの物語 ~こんな恋をしている二人が羨ましい

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