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占いの館で彼女を奪われ、異世界で王族の婚約者にされたので、僕は必ず取り戻す  作者: 播磨 颯太


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23.狩りの朝──ゆう、決意の一矢

アデン国 パール城 ゆうの部屋 亥の刻


窓の外には冴え冴えとした月が輝き、城内の灯火がゆらめいている。静寂に包まれた夜。

しかし、ゆうの心は焦りと苛立ちでざわついていた。


「どうすれば、のぞみさんを救い出せる…?」


指先が机を叩く。婚姻の儀まで、あと四日。そしてその夜には——初夜の儀。

それまでに絶対に、のぞみを連れ出さなければならない。

もし間に合わなければ——。


「……そんなこと、させるものか」


ゆうは強く拳を握る。

のぞみを、ニヒルの手になど渡すものか。


焦るな、冷静に。

一騎打ち戦は明日はない。ならば、その時間をどう使う?

何も動かずに一日を無駄にするわけにはいかない。


ゆうは考えを巡らせ、そして従者のカオリを呼んだ。


「カオリ、明日の王族の行事は?」


カオリは迷いなく答える。


「狩がございます」


「狩?」


「王族の道楽です。山へ赴き、ウサギや猪を狩ります」


「誰が行く?」


「国王ガウバー陛下、そしてニヒル様。加えて、貴族方が同行します」


貴族…ということは、自分も行ける。


「……これだ!」


ゆうの脳裏に、一つの可能性が閃いた。

狩りの最中、事故に見せかけて——ニヒルを暗殺する。


だが、問題は方法だった。

直接襲いかかる? 

いや、それではリスクが高すぎる。失敗すれば、のぞみの命も危険に晒してしまう。


「不慮の事故…だとしても、どうやって?」


ゆうは思案する。

必要なのは、確実に仕留める手段。

そうだ、マムの助けを借りるしかない。


ゆうは素早く立ち上がり、部屋を抜け出した。

忍び足で廊下を進み、向かう先は——ジロームの部屋。


ジロームは、一騎打ちで負った傷でまだ床に伏しているはずだ。

その部屋の前で、ゆうは低く囁いた。


「……マム!僕だ、ゆうだ!」


数秒の沈黙。

やがて、扉が静かに開いた。


蝋燭の灯りがゆらぎ、そこに現れたのは、長い睫毛に縁取られた瞳を持つ少女——マム。


「……ゆう様、どうなさいましたか?」


その声は甘く、だがどこか、すべてを見透かしているような響きがあった。


「ニヒルを暗殺したい。何か良い方法はないかな?」


マムはしばしゆうを見つめ——ゆっくりと微笑んだ。

そして、ふわりと身を翻し、胸元から何かを取り出す。


細い、筒状の物。そして、小さな矢。


「これは?」


「吹き矢です。毒矢が込められています」


ゆうは驚いた。

「どうしてこんなものを?」


マムは、楽しげに微笑む。


「ゆう様が、私を訪ねてくることは分かっていましたので」


——やはり、ただの従者ではない。


ゆうは吹き矢を受け取り、矢を確認する。


「もっと、矢はないの?」


マムは、そっと首を振る。


「これは、一年に一つしか作れない特別な毒矢です。アデン国に一輪だけ咲くトリカブトの毒を精製し、一滴ずつ仕込んでおります」


「……一年に一つ?」


「はい。その一矢だけで、確実に命を奪えます」


——ならば、この矢を使うしかない。


ゆうは、矢を慎重に手の中に収める。


「……ありがとう、マム」


マムは小さく微笑んだ。


「ご武運を、ゆう様」


ゆうは、静かに頷いた。


明日——狩の場で、すべてを決める。

この一矢に、すべてを賭ける。


「のぞみさん。絶対に、助け出す」


ゆうの目に、揺るぎない決意の炎が宿っていた。


————————————


アデン国 パール城 ゆうの部屋 卯の刻


夜の帳が明け、東の空に薄桃色の光が差し込み始めていた。

静寂に包まれた城内。わずかに聞こえるのは、遠くの衛兵の足音と、朝靄の中で鳴く鳥の声だけ。


ゆうは机の上に置かれた吹き矢を見つめていた。

マムから渡された、たった一本の毒矢。


手に取ると、細い筒の中に仕込まれた矢が、わずかにカタリと音を立てる。


——練習がしたい。だが、できない。


中にはすでに、毒が塗られた矢が装填されている。

この矢を無駄にすることは許されない。

もし別の吹き矢で練習したとしても、飛び方や感覚がまったく同じとは限らない。


たった一回に賭けるしかない。


婚姻の儀、初夜の儀まで、今日を入れてあと三日。

一日も無駄にはできない。

——必ず今日、ニヒルを仕留める。


ゆうは深く息を吸い込み、ゆっくりと吹き矢を元の位置に戻した。


のぞみさん、待っていて。僕が必ず、助け出すから——

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