第61話 呪殺と殺呪
「リア様……呪いとはどういう事なのでしょうか?」
マリーは恐る恐るリアに確認をとる。
父は半年前。マリーが姿を消してから持病が悪化。
今では自分の事は殆ど出来ない状態。
それでも神官達の必死の祈りによって今日まで
生きながらえてきた。その原因が……
「良く見てないですけど確認出来るだけで2つ……
左肩と右腕に呪いを受けています。
このままだと……」
リアは言葉を区切る。このままだと死ぬ。
ヴァイス王国の国王が死ぬ。
リアにとって何も関係の無い事。
むしろリア.カーティスにとっては嬉しい事。
国王が呪い殺されようとしている。
自業自得だ。『自分の過ちを悔い改めながら死ね』
とすら思った。
しかし同時に心の中から声が聴こえてくる。
『貴女が行きたいように生きて。私の分まで』
「う……エリスさん。私……どうしたら……」
フラフラとゆっくりと国王に近付くリア。
国王は視線を少女から亜人へと切り返す。
そして同時に槍がリアの喉元に迫る。
「生きたいように……生きたいように……生きたいように。
エリスさんの分まで、エリスさんが望んでいた事。」
浮言のように呟き続ける。瞳からは大粒の涙。
衛兵に視線を送り片手を差し出す。
「短剣……持っていたら貸してください。
私の短剣だと無理なんです。」
衛兵は微動だにしていない。
この亜人が少しでも殺気を出せばいつでも殺せる。
しかし亜人から殺気が感じられない。
それどころか……
「私は……衛兵……失格です。お許し下さい。」
槍を収めて懐から短剣を手渡す。
感情を持ってはならない王の側近があろう事か
武器を手渡す暴挙。許されざる愚行。
しかし王はそれを咎める事はしなかった。
今死ぬのも明日死ぬのも変わりなどない。
最愛の娘に伝えたい事は伝えたのだ。
何よりこの亜人……見覚えがあった。
エリス.カーティスが口にしていた亜人の家族。
マリーは名前をリアと言っていた。
リアと言う亜人の口からもエリスと言う名を聞けた。
ならばこの場で死ぬ事は必然なのではないのか?
「ワシを殺して構わん。それで……君の気が済むのなら」
「……済む訳ないでしょう!ふざけるな!!」
怒りを孕んだ叫びと共に短剣の一閃を国王に浴びせる。
左肩からはドス黒い濁りきった血液
それに似た禍々しい汚物
『ガギギギ……ガキャ!!』
肩から噴出した汚物は気味の悪い唸りをあげる。
「消えろ!この汚物がァ!!」
ダンッ 短剣を汚物諸共 地面に突き刺す。
黒い煙を上げながら汚物は霧散していく。
改めて国王に向き直るリア。
衛兵は信じ難いものを見るような瞳で
マリーは頼れる友も見つめる眼差しで
ジェシカは座りこみ事の成り行きを見守っていた。
「貴方には……まだやるべき事がある。
エリスさんのお墓の前で謝ってもらう。
自分の足でエリスさんのお墓まで来てもらう!
勝手に死ぬなんてエリスさんが……私が許さない」
国王はリアの眼差しにゆっくりと頷く。
どことなく生気のある顔付きに戻る国王。
常に間近で見続けた衛兵にはその事が信じられなかった。
右腕を持ち上げるリア。
ゆっくりと骨と皮を触診しながら……
「これは……マリーさんが創った物です。
だからお礼はマリーさんに言って下さい。」
バッグから少量の透明な液体を短剣に振りかける。
国王の右腕をほんの少しだけ傷つけた瞬間。
『キギギギァァァ!!』
けたたましい悍ましい叫び声が謁見の間。
更にはその廊下まで響き渡る。
国王の腕から何かが噴出していく。
「なんと言う事だ……」
肩と腕から血を流した国王が
ヨロヨロと……しかし自身の足で立ち上がる。
身体の感触を確かめながら。
そして玉座に腰をおろし
「体が思い通りに動く至福をまた味わえるとは……
ありがとう……エリス.カーティスの娘よ……」
涙を流し、そのまま心地良い眠りについてしまった。
…………
リアは眠りについた国王に断りもなく触れ続け、
「……あと1箇所ありますね。原因もそうですけど
この呪いは」
「何事ですの!!」
巨大な扉が断りもなく勢い良く開け放たれる。
ドタドタと音を立てながらなだれ込む百にも及ぶ兵士達
その先頭にはマリーの姉エリザベス。
国王の容態を瞬時に看破した姉。
「お父様……クッ……その賊を捕らえなさい!」
「お姉様止めてください!リア様は私のお友達ですわ!
それにお父様の容態を治してくれたのは」
「黙りなさい!メアリー!貴方の知り合いなら貴女も、
衛兵も皆同罪よ!牢屋にブチ込んでおきなさい!」
マリーの言う事を聞く人間はこの場には存在しなかった
抵抗する間もなく瞬時に組み伏せられるリア。
抵抗もせず鋼鉄の錠をかけられるマリーと衛兵。
そして残った賊の1人
「……この人数を殺さないのは面倒ね。
貴方達も死にたくないでしょ?あたしは殺したくないわ。」
まるで焦りを感じていない金髪の少女。
「その高慢な子供も捕らえなさい!」
エリザベスが兵士達に指示を出す。
兵士達が詰め寄る間に瞬時に別の場所へと移動する
少女。
そしてリアに笑顔で見下し
「なんで抵抗しなかったの?アナタ自分で言ってたわよね?
『絶対処刑される』って。わかってるの?」
リアは組み伏せられた状態で目線だけを
ジェシカに投げかける。
意図を察したジェシカは呆れたように
「……バイバイ、ケモ耳。」
軽く手を振り姿を消してしまった。
扉には少女になぎ倒されたであろう兵士が転がっていた。
「何処に逃げたの!?……早く追いなさい!!」
エリザベス王女の怒声が城内にこだまする。




