第60話 賊侵入
「それでですね。お父様!リア様とアサミ様は
とても素敵な方でしたの!私の大事なお友達ですわ!」
マリーは父親に対してこれまでの経緯を話す。
しかし監禁されていた事は言わなかった。
父にこれ以上心配かけてはいけない。
国王はもう時期死ぬ。ならば王女に出来る事など
『自分は大丈夫だ』と言う精一杯の見得を張るだけ。
「そうか……マリーが神酒を……」
国王は天井を見上げ涙を堪える。不出来な娘を讃えるように。
ヴァイス王国8代目国王レッグヴァイスは3人の子供がいた。
長男リチャード.ヴァイス。
文武両道。神への信仰も厚く、民の信頼も厚かった。
誰よりも次期国王に相応しい存在。
しかし致命的な欠陥がある。国王だけがわかる欠陥。
長女エリザベス.ヴァイス。
現在の王国の内政を取り仕切っており実質
全権を持っていると言っても過言ではなかった。
彼女が持っていないのは女王の称号だけ。
次女メアリー.ヴァイス。
特にこれと言って秀でている部分はなく
本人も王になる気がなかったせいか、
滅多に王宮内から外へ出る事をせぬまま
今まで過ごしてきた。
ある時を境に狂ったように王国を批判した
ヴァイス王家の名を汚す者。
「メアリー。よく聞きなさい。」
「お父……はい国王陛下。」
マリーは跪き国王の手をしっかりと握る。
体温を感じさせない骨と皮の手。
しかししっかりと握り返そうとする意志を感じる
父の温もりの感じる掌。
「国王てしてはメアリー.ヴァイスには
女王になってもらいたくはない。民も同じ気持ちの筈だ。
お前は必ずこの国を崩壊させる。」
「……はい。」
この国の国王は長男が継ぐという風習はなかった。
民に選ばれた者。全てを納得させた者こそが国王となる。
「だが……父としては……マリー。お前に女王になってもらいたい。
この国を終わらせてほしい。ワシでは遅すぎた。
リッチもエリーも現実を見過ぎてしまった。
汚れを知らないお前だからこそ……
お前は必ずこの国を崩壊してくれる」
「……お父様?なんの事なのか……」
不意に後ろに控えていた衛兵の一人が前に出る。
物言わぬ人形の兵隊が王と王女に背を向け。
「……失礼します。大事な時間を邪魔してしまいます。
後に死ぬ事で詫びさせていただきます。どうかご容赦を」
衛兵の一人は槍を構え入り口を見定める。
もう一人は王の隣へ立ち殺気を漲らせる。
「なにがあった?お前達が死ぬ必要などない。」
「賊です。近くに二人……遠くに一人。
遠くの一人はかなりの手練……恐らく刺客かと…」
刺客。その言葉にマリーは震える。
自分を殺そうとする者。頼れる存在は名も無き衛兵。
そして…今父を守れるのはメアリー.ヴァイスだ。
マリーは立ち上がり父に背を向ける。
「お…お父様。私強くなりましたの。
リア様…アサミ様…貴方達のような強さを私にも…」
両手を目一杯広げて王を守ろうとする娘。
その光景を父は……王は何を思ったのだろうか?
意志のない衛兵は何を思ったのだろうか?
謁見の間に広がる静寂。
互いの心音すらも聴こえてきそうな中
扉の外から声が聴こえてくる。
「ここは明らかにダメですって!一旦帰りましょう!
見廻りに見つかったら絶対処刑されますよ!
「だからあたしは知り合いだから大丈夫なのよ!
嫌だったらアナタ宿屋にでも居れば良かったじゃないの!?」
「そんな訳には行きませんよ!あと静かにして下さい!」
「……アナタこそ静かにしなさいよ。
もう開けるわよ? 誰か居る?入るわよー。」
知り合いの部屋へ入るような気軽さで
大きな扉が開かれる。
二人の女性。金髪の女の子と獣耳が特徴の亜人の女性
「ホラ。居たじゃないの。それに……久しぶりね。
レッグ.ヴァイス。よね?遊びに来たわよ。」
国王は目を細めて金髪の少女を凝視する。
自分を呼び捨てにする傲慢な少女を
「お前は…………」
国王の呟きと同時
ダンッ 国王の前に立っていた衛兵が姿を消す。
正体はわからない。だからこそ見過ごせない。
女子供とて容赦などしない。見た目で判断しろ。
その様な命令は受けていはいなかった。
衛兵の音速にも届かんとする槍が
少女の服を穿き肉を喰い破り内蔵を……
「……フゥー。アナタのお城って
どうやって入れば良いの?入り口からでも裏口からでも、
秘密裏でも襲いかかってくるじゃないの?」
衛兵は槍を携えたまま意識を失っていた。
自身の職務を果たせぬままに。
金髪の少女は国王に近付く。
国王の視力でもハッキリとわかる距離まで
金髪の少女は何も変わっていなかった。十年以上昔と、
40年以上昔と変わらぬ姿。変わらぬ態度のままに。
きっと百年前。初めてヴァイス王国に姿を現した時も
同じ姿だったのだろうと生唾を呑みこむ。
「占い師の孫か?よせ!大事な客人だ!」
少女の正体に心当たりのある国王が衛兵を止める。
衛兵は頷き。2歩後ろへ下がる。殺気は己の内に秘めたまに。
「あ……リア様!お父様!
先程お話しした お友達のリア様ですわ!」
マリーは笑顔で亜人の女性に駆け寄る。
王宮に帰ってからの不安が彼女の存在と共に流されていく。
「貴方……なんでそんなに老けてるの?
もう死にかけじゃないの?」
玉座に座る国王と同じ目線の高さで喋る少女。
リアも国王を見つめる。距離にして5メートル。
これ程近くで国王を拝見など金輪際無いだろうという距離。
そして固唾を飲む。
「マリーさん……国王は何故放置されてるんですか?」
「放置?お父様は御病気で。でも神官の方々が
毎日癒やしの術を施しているから決して放置などは」
国王のやつれ方は異常だった。
見るモノが見ればそれは当たり前……
リアの目にはハッキリとわかる正常。
「国王は祝いを受けています。
それもかなり重度の祝い……一般的にここまでくると……
呪いです。呪い殺されようとしてます。」




