第59話 ヴァイス王国
ビブル砂漠にてリアとアサミと別れたマリーは
クーガーに連れられヴァイス王国に帰還していた。
そして帰還するなり自室に閉じこもり誰とも面会せず
ただ国王……自身の父親との面会を待ち続ける毎日。
部屋にはもう一人。彼女を連れて来た存在。
クーガー.エヴァンス。彼は頭を掻きながらも
今日も彼女を説得していた。
「あーなんだ。オレが連れて来たのは
不味かったってのはわかったが、オレにも予定がある。
此処は姫さんの城だ。何処よりも安全だろ?」
「……お願いします。クーガー様。
もう少しだけお側にいて下さい。私には貴方様に
支払える物は持っていませんが……どうか」
クーガーは返事をせずに窓から中庭を覗きながら
これからを思案していた。
メアリー.ヴァイス王女を発見し王国へその旨と
帰還ルートを伝えた所。常に襲われ続けた。
クーガーは国に仕えてはいない。過去に仕えていた事があるだけ。
これが騎士ならば喜んで王女の剣となり盾となっただろう。
しかし男は違う。男はこれから……別にやる事もなかった。
しかし……事態が何も進展していない。
王女を送り届けてもう3週間になろうとしている。
メアリー王女はクーガー以外を信用しておらず。
国王にも暫く護衛についてほしいと大臣づてに頼まれた。
そしてその進展が遂に訪れようとしていた。
カンカン 金属が小気味良く打ち付けられる音。
マリーはビクリと身体を震わせクーガーに駆け寄る。
「姫さん。誰かがノックしてるだけだ。
ドア越しに殺気もねぇよ。 何のようだ!?」
「レッグ国王のお時間がようやく取れましたので
ご報告を……メアリー王女も流石に来ていただかないと……」
ドア越しに侍女のくぐもった声が聴こえてくる。
「お父様!わかりましたわ!直ぐに着付けを……
クーガー様……あの……着付けをお願い出来」
「オイオイ!?んな事出来るかよ!
オレは外に出てるから誰か呼んでくれよ!」
まさか王族のドレスの着付けを頼まれるとは
思わなかったクーガー。そもそも聞いた所によると
いたる所を締め付けるドレスも意味が分からない。
それ程細く見せる事になんの得があるのか?
………………
「ハイ終わりました!とても綺麗ですよメアリー王女。」
侍女が着付けを済ませ。
ゆっくりとクーガーが振り返る。
「んじゃ行きますか?オレも同席させられるんだよな?」
「はい。クーガー様も是非」
侍女が深々と頭を下げ二人は部屋を出る。
広い王宮内絢爛な装飾。贅の限りを尽くした部屋部屋
………………
「メアリー!お久しぶり!もう奇病は治ったの?」
様々な宝石を身に纏った20歳の女性が
マリーに声をかける。
「……エリーお姉様。私は奇病などでは……」
肩を震わせながら小さく呟く。
姉を見た瞬間恐怖を前にした人間と成り果てる。
そんな妹の姿に満足したのか肩を力強く握り
「い……いっ……痛いです。お姉様。」
爪を柔肌に喰い込ませ
「わたくしの名前はエリザベスよ!この狂人が!
お父様に余計な事を吹き込んだら…………
今度は療養などでは済まないわよ。」
マリーの耳元で囁く姉。
「…………。女同士ってのは怖いなぁ。」
「全くだな。ところで何故お前此処にいる?
働きたいなら俺と代われ。この年で傭兵は俺でも辛い」
クーガーは40手前右腕の無い男と軽く話していた。
察するに知り合い。
「オレじゃオッサン程 給金貰えねぇだろ?
適材適所だよ!」
バンバンと肩を叩くクーガー。
その行動に気付いたエリザベスはクーガーを睨み
「ちょっと!?ドグマ.マグナスに触れないで頂戴!
だいたい貴方の汚らしい格好……
誰が王宮に入る事を許可いたしましたの!?」
二人を引き離し間に入り込む。
「へぇ〜へぇ〜。汚くてスイマセンでした〜。
大臣殿に直々に頼まれましたよ〜。」
クーガーは挑発するように王女をからかう。
「この男はー!」
エリザベス王女はワナワナと震えながら
ドグマの後ろに隠れてクーガーを更に睨みつける
「メアリーの護衛だか
知らないけれど わたくしの視界に入らないで!
目が汚されるわ!この野蛮人!」
「お戯れが済みましたらそろそろお静かに。」
大きな扉の前に神官が立っていた。
この先にいるのは150年の歴史をもつ王へと続く間。
王との謁見を許可された者だけが入る事が許される
神聖な場所。
4人が全員に緊張して扉を開け中に入る。
玉座に座る50後半の男。髪は白髪。
頬は痩せこけ。身に纏った衣服は壮大なれどまるで
威厳の感じられない風貌。
「呼び出したのは……メアリーだけの筈だが?」
国王は姉のエリザベスに視線を送る。
「メ、メアリーは奇病が完治しておりません!
わたくしは妹が心配で……」
姉は妹の肩を優しく触る。先程の爪痕を撫でるように。
「……私が、エリザベスお姉様にお願いしました。」
マリーも震えながら姉に同意する。
「ならん!下がれエリザベス!
メアリー!貴様はいつからそこまで偉くなった!?」
国王は激高する。
威厳のなかった国王は王たる風格を取り戻す。
「も……申し訳ありません!下がらせていただます。
……メアリー。くれぐれも」
わたくしの邪魔をしないでね?
声に出さない言霊がマリーを貫く。
「では俺達も下がります。」
クーガーと隻腕の男ドグマが頭を下げその場を後に
しようとする。
「え?クーガー様も……」
マリーの不安な声を聞きとり小声でマリーに
「正直に言うけど国王まで信用出来ないんじゃ。
いずれ姫さんは殺されるよ。だから二人で話し合うべきだ。
姫さんの為に国王は時間を割いてくれてるんだろ?」
「……はい。ありがとうございますわ。クーガー様」
…………
玉座に残ったのは国王レッグ.ヴァイス
次女のメアリー.ヴァイス。
そして国王の側近。物言わぬ衛兵が二人。
この二人は自らの意思を剥奪されている。
ただ王を護る。これだけの為に存在している。
国王に害がなければ居ないも同義。
「あの……国王陛下……」
マリーが意を決して口を開く。此処は謁見の間。
気軽に父など呼べないとマリーは思っていた。
現に昔からこの場で父と娘の関係になる事を
国王自身が否定し続けていた。
「マリー……ワシはもう耳が余り聴こえぬ。
もっと近くへ寄ってくれ。」
威勢の無い声が謁見の間を包む。
「国お……お父様?……」
ゆっくりと父に近付き。その痩せコケた手を握る。
「何故?お父様!半年前まであれ程逞しかったのに?」
ワナワナと震えながら父の手に、
骨と皮だけの腕を持ち上げる。
「マリー……死ぬ前にお前に会えて良かった。
この時間を取るのは大変だった………本当に大変だった。
大事な時間は父と娘として話したかった……」
「お父様!?嫌です!私を一人にしないでください!」
父と娘の半年振りの再開は父の嬉し涙と娘の悲哀の涙だった。




