第58話 ゴールド.J
「そこのデカイの!レディを泣かせる奴は悪者よ!
悪者はあたしが許さないわ!」
勢い良く大男に対して指を向けるゴールドJ
まるで子供の遊びのような仕草にリアと大男は固まる。
そしてリアは理解した。
島でのごっこ遊び。ジェシカは常に乗り気ではなかった。
それもその筈。彼女がやりたい役柄は正義の味方。
しかし皆が正義の味方ではごっこ遊びは成り立たない。
仕方無しに年長のジェシカは常に悪者役をしていた。
そして何より悪者役が似合っていた。
抑圧された願望がパピヨンマスクと共に開放されたのだ。
アサミの母が渡した趣味の悪い仮面と共に……
「トルコマンの力を削いだ少女か……
どうしたものか……」
大男は顎に手を置き瞳を閉じる。
「え〜っとジェシカさ……じゃなかった。ゴールドJ。
用事は終わったんですか?お金を貰うだとかの。」
「ん?あぁお金ね。あんまり多くなかったけど……
ほらちょっと数えてなさい。1万ぐらいあれば良いんだけど。」
ゴールドJはリアに袋を投げ渡す。
お金を貰う筈だったのはジェシカなのだがリアは気にしなかった。
何故ならゴールドJは紛れもなくジェシカなのだから。
ズッシリとした感触。中身を恐る恐る覗くリア。
「……うわっ……」
袋の中には大量のお金が……
全うな方法なのか?何処かに血痕でもついてないのだろうか?
正直触りたくもないが、
リアの予想通り誰かから借りたのだろう。
詳しい額も解らぬ金額を優しい知人から借りただけ。
そう思い込む事によってリアは自分を納得させる。
「ほら涙を拭きなさい。正義の味方が来てあげたわよ。
あのデッカいのがアナタを虐めてたんでしょう?」
ゴールドJは銀髪の女の子にハンカチを渡す。
勘違いをしたままに。
「…… うるさい もう帰る」
銀の女の子はハンカチを受け取らずに腕でゴシゴシと
目元を拭いスッと立ち上がり
「あたしの優しさを……生意気な銀チビね。」
「銀チビ!? お前も 変わらない クセに!」
二人の女の子は視線を合わせ火花を散らす。
同時に大男とリアも視線を合わせ頷き合う。
「クレッセント。起きたのなら帰るぞ。
非は此方にある。これ以上余計な事はするな。」
「ジェシ ゴールドJ。ありがとうございました!
おかげで助かりました。もう大丈夫なので」
お互いに二人の肩を掴み逸る気持ちを諫める。
「どうやらデカイのは改心したようね。
覚えておきなさい。ゴールドJは悪を許さないわ!
トウッ 」
元気な掛け声をあげゴールドJは砂埃と共に姿を消した。
「あの金髪 ムカつく ワタシは
ちゃんと 名前がある。」
怒りを押し殺したような呟きと共に銀髪の女の子も姿を消す。
残された二人。悪魔と亜人。
「今日は日が悪い。後日は我一人で会いに行こう。
我は第三悪魔ヴィジャ.カフス。貴様の名も聞いておこう。」
「だ……第三?リアです。リア.カーティス」
リアも名を名乗る。何年も名乗らなかった
セカンドネームまで名乗り悪魔の問に答える。
「リア.カーティスか。第九悪魔の代わりが
見つかるまでは我が貴様の魔法を承ろう。
対価は……暫くは取らぬ事にするか。
普段魔法使いに力を貸すことがないので勝手が解らぬ」
「あ……ありがとうございます。」
リアは頭を下げながら身震いしている。
第三悪魔が自分の力になってくれると言うのだ。
世界に十 存在する悪魔。
数が小さい程、力を持つと言われている
第一悪魔は姿、形。存在すらも確認出来ていない。
ただ名前のみで何百万年と第一悪魔に君臨し続けている。
シングル.ハート
第二悪魔は百年以上昔に力の大半を失っている。
余程の悪行が目に余ったのか、理由は定かではないが
異質な存在に力を破壊された
ダーク.ノヴァ
そしてリアの目の前に存在する大男。
現在において最も力ある悪魔。
ヴィジャ.カフス
リアの礼を背中で受け止めた大男は空に溶け込む。
ゆっくりと青と同化していき……やがて……消えた。
「何がなんだか……わからない。」
リアは一人になり、ようやく正常な思考を奪われる。
リアが契約していた悪魔が消滅した。
第三悪魔の言う事が事実ならリアが原因の可能性が高い。
何より第三悪魔が対価もなくリアと契約した。
命を対価にしても尚足りないかもしれない力を無償で。
そして穿たれた脇腹から這い出て来た不定形。
この不定形は確かな意思を持っていた。
リアに短剣を渡し今はリアの身体に入り込み。
傷を内側から塞いでいる。
銀髪の女の子は魔物だと言っていたが、
今までそんな事は一度としてなかった。
更にはパピヨンマスクのゴールドJ。彼女はいったい……
「ジェシカさんは別にどうでもいいか。」
彼女のブッ飛んだ姿を思い出し改めて冷静になるリア。
程なく 件の少女がテクテクと歩いて来る。
仮面は付けていない。
「あ、あら?どうしたの?なにか良い事でもあった?」
彼女はそわそわしながらリアに問いかける。
傷口こそ塞がっているが血痕のついた地面を見て
何故に良い事があると思えるのだろうか?
しかしリアは空気を読む。
「ゴールドJって言う謎の人物に助けられましてね。
まさしく正義の味方でしたよ。」
「へ……へぇー!あたしもそんな素敵なレディに
会ってみたいわね。
この町はダメだから次の町に付いたら
馬車を雇いましょう。お金は足りそう?」
ジェシカは満足しながらも
自身の矛盾した発言に気づかない。
リアは人物と言った。一言も性別など口に出していない。
第三悪魔同様に心を読んだ可能性も否定はしないが、
「……私の持ち金では足りませんが
ゴールドJから貰ったお金なら十分に足ります。」
リアはやんわりと伝えつつも本当に聞きたい事は聞かない。
きっと怖い答えが返ってきそうだったからだ。
「あ……そっか。ゴールドJ……素敵なレディね」
「……そうですね。」




