第182話 道化の思考
予定通りニーチェとエリーが
貸し出された一室で二人きりになる。
王女だからなのかマスターは
王女の頼みは快く引き受けている。
……護衛……外出以外は。
それでも魔狩人君を付けてくれるあたり
破格の待遇だとも思える。
エリザベス王女に現状の説明。
やはり動揺してヴァイス王国に向かうとする。
その前に……
「王女様ってリア会長と知り合いッスか?
あっし聞いた事ないッスよ。」
「お……お友達……ですわ。
それにアナタには関係ありません!」
……やはり深く語ろうとはしない。
まぁ、逆の立ち場でもアタシも
王女様には会長との関係は言いたくはない。
さて……どちらから試そうか…………
「あ〜〜……王女様ってジュウって
名前の古代遺物知ってるッスか?」
少しずつ……焦らない。
「ジュウ……リアが持ってますわ。
わたくしの友人がリアに渡してほしいって。」
王女の顔を覗き見る。
少しキョトンとしながらも悪びれていない。
間違っても盗んだ物ではない。
これで盗んでいたらアタシの目は節穴で
王女は暦世紀始まって以来の大嘘付きだ。
「え……と。大事な物ッスか?」
「価値はわかりませんわ。でも
わたくしにとってはあの子の遺品でもあるから
大事にしてほしいですわね。」
……アサミちゃんの話しに出てくる〈お姉ちゃん〉か。
正直死ぬにしても遺産分与は
しっかりやってほしかったッスよ
アタシだってそんなのが面倒だから
ビル君と離婚したのに……
金品はなくともビル君との思い出は
ちゃんと…………ある。
この考えは今は必要ない。
「そのジュウを欲しがってる子がいるッス。」
「ありえませんわね。」
キッパリと断られた。
過去に何度頼んでもダメだった。
南の王国が停戦と引き換えに欲しがっていると
伝えても……むしろ余計に拒否を示す。
軽く溜息をつきながら諦めたように
「は〜い。アサミちゃんには、
あっしから伝えとくッスよ。
『王女様が渡してくれなかった』って。」
「………………アサミ。」
王女の瞳が見開かれた。今まで見たことが無い。
恐る恐る王女は確認する。
「アサミって……ジェシカの妹ですの?」
ん?ジェシカ?なんでジェシカちゃんと
アサミちゃんが出てくるのか?
太陽の島にいるジェシカなら死ぬ事は考えられない。
少女が育ててるアサミちゃんは暫く会ってないけど
まだ2歳ぐらいの筈…………。
ああ……そういう……事……か。
だからドグマ君とも知り合いだし、
アタシの事も覚えててくれてたんだ。
思い出せなかった……と言うか成長速度を考えれば
さもありなん。
「ん〜?多分本人ッスよ。
紅い髪の10歳ぐらいの女の子ッス。」
エリー必死の形相でニーチェの肩を掴んだ。
「ど……何処に居ますの!?
その子ならリアを元に……戻せるかも……」
ニーチェはされるがままに肩を揺すられながら
「教えるし、あっしからもアサミちゃんに
頼むッスからから、ジュウをアサミちゃんに返……
渡してあげてほしいッス。」
「でも……アレはジェシカがリアに……って。
やっぱりダメですわ。」
考えながらも渋るエリー。
それは少女の遺言を守らないと言うことだ。
おいそれとは頷けない。
「クッソ……話しが違うッス……」
ニーチェは軽い目眩を覚える。
未来のエリーは名前を出せば了承すると言っていた。
しかし現実は渋りながらの拒否。
もう一押しするべきか。
「……アサミちゃんは盗られたって怒ってるッス。
バレたらリア会長を戻すどころか殺されるッスよ。」
「そんな筈ありませんわよ。
その話しをしている時に
その子も一緒にいましたもの。
父親と母親も頷いてましたわよ。
若すぎるし……どう見ても兄姉でしたけれど。」
ん……?あれ?太陽の島のアサミちゃんじゃないのかな?
あの子は両親がいない筈。
だからジェシカちゃんが必死に育ててたし、
あっしも生活が落ち着くまで、
3ヶ月間滞在する事になった。
「あ……と。王女様の言ってるアサミちゃんって
どんな風貌でした?元気な子とかとか、
読み書き算術全く出来ないとかとか?」
王女は思い出すように少しずつ
伝えてくれた。
「ニーチェが言ったように紅い髪の子。
元気は……ジェシカがあんな目にあった直後でしたから
……正直怖かったですわ。
だってあの子…………
笑ってましたもの 」
笑う?……何かおかしい。
いや……アサミちゃんはかなりおかしい。
狂って笑う事もあるだろう。
そのあたりは追々考える。
「………………ちょっと考えるッス!」
…………説得材料を1つ……これは絶対に確保する。
…………万が一……違う。ほぼ確実におとずれる死の回避。
…………アサミちゃんの無力化……条件つきで可能。
アカリちゃんの無力化……未だに不可能。
アカリちゃんの説得……酒?
カバンの中身を確かめる。置いてきてしまった。
アカリちゃんにあげるはずの霊酒を。
変わりにカバンに入っているのは、
幼女にもらった歪な弾丸。
これは過去に戻れば消えてしまう。
またあの幼女に会えるとは思えない。
「わかりましたッス。アサミちゃんは置いといて
ヴァイス王国に行きましょう!
護衛は必要ッスよねよね?
どうせならメガネに護衛させましょう!」




