第100話 与えられた者
「メアリー……メアリーがなんの関係がありますの?」
エリーは呆気に取られた顔をしてキョトンとしている。
妹に与えられたもの等ありはしない。
何も出来ない無能な妹。
自分の足を引っ張るばかりの妹。
それでも……かけがえの無い……
「あんた……自分でおかしいと思わなかったのかい?」
老婆の主旨を得ない発言に首を横にふる。
おかしい?何がおかしいのか?
気付けばきっと……その、
その根底を揺さぶられる
「エリス.カーティスが王国に姿を現さなくなって、あんたは自分から王宮の奴等に声をかけ続けた。エリザベスヴァイスにそんな事が可能と思っていたのかい?」
心臓が跳ね起きる。
「一息で手首を切り裂いたそうだね?
エリザベス.ヴァイスの何処にそんな勇気があるんだい?牢屋に入れられて執念を燃やした?笑わせる。そりゃいくらでも燃やせるよ。燃料はあんたじゃない。メアリーヴァイスが担ってたんだから。」
「そ……それはわたくしが変われたから。」
エリーは辿々しくも自分なりの答えを出す。
エリスの存在の有無が自分を強くしてくれた。
それ以外はないはず。
それを一笑に伏すように老婆は
「そうだね。変わったよ。
ただし原因はあんたの妹だよ。
孫があんたに何かを渡しに行った時。妹はわたしはの所ヘ来たよ。」
老婆は語り始める。ようやく契約を全うするかのように
ーーーーー13年前ーーーーーー
王宮内の特別な一室。老婆は孫の用事を済ませるまでその場から動かずに待ち続ける。
椅子に腰掛ける窓から見える景色を堪能しつつ
すぐに訪れるであろう人物を待ちつつ。
老婆は窓を指で叩く。音も無く。
小さく2回。ひとりでに扉が開きその先には驚いたように辺りを見渡す小さな子供。
老婆はその子供と眼も合わさずに
窓の外を見つめていた。
「なんのようだい?扉は自分で閉めなよ。」
明らかな不機嫌な態度の老婆。それに臆する事もなく子供は扉を閉め老婆に近付き。
「……占いしさま。わたくしにも予言をください。」
「なんでだい?理由をいいな。」
理由などわかっている。
だからこそ自身の口から語らせる。
「きのう占いしさまのおマゴさまにお姉さまが
イジメられました。」
「……それで?責任がワタシにあると?」
そんな訳はない。老婆はわかっている。
後ろで手を固く結んだ少女は
そんな責任転換をするような子供ではないと。
「わたくしがお姉さまを守れるように強くなれれば……お姉さまは泣かなくていいんです。占いしさまの予言があれば……」
その子供は僅か6歳。姉を大事に想い姉の為に自分が出来る事を全力でやろうと取り組んでいる。
その姿は……立場は違えど何処か…………重なって見える。
「それならあんたが強くなくても問題ないよね?」
「……?……はい。」
少しの間。その子供はしっかりと頷く。
老婆はゆっくりと立ち上がり。子供の瞳をジッと見つめる。
「教えてやるよ。昨日ワタシが言った言葉。
あれは予言なんて大層な代物じゃあない。
ただの確定した事実だ。絶対に覆らない。
最悪も最高も受け入れるしかない。
そんな力があんたは欲しいのかい?」
予言ならば回避出来る。準備をすれば予言を覆らせる事も十分に可能。だが……
「昨晩遅くに国王達に2つの紙を渡した。
どちらか開けると思うよ。開けたら確定される。
開けなければ確定されない。可能性が存分に残される。
そんな馬鹿みたいな力だと知ってまだ……あんたは望むのかい?」
6歳の子供には難しい話しだろう。
しかしこの子供は何処か毛並みが違う。
「……お姉さまを守れるほうほうを教えてください。」
子供は精一杯の頭を下げる。
身分という概念などまだ実感などしていない。
老婆にそのような事は通用しない。
「昨日ワタシが渡した物を出しな。」
子供は手のひらを広げる。そこには何もなかった。
「ーーーー。」
老婆が不思議な言葉を呟くと
手のひらから現れる。得体の知れない異形な目玉。
「自身の名を口から吐き出し
守りたい者を想いながらそれを食いな。
それで姉は少しはマシになるよ。
嫌なら構わないよ。ワタシが嘘を言っている可能性もあるんだから。」
「わたくしは……マリー……メアリー.ヴァイス!」
メアリーは名前に躊躇を見せたものの
目玉を飲み込む事に対しては
一切の躊躇いも見せずに一息で呑み込み。
老婆は少し感心する。
「あんたが守ってやりな。あんたの才能はもう無いよ。
全部姉に譲られた。あんたが強ければ強い程。
姉は何者にも屈しないよ。
逆にあんたは弱くなってしまったね。対価をとってないんだ。これぐらいは我慢しな。」
明らかな虚脱感に包まれてフラフラと後ずさりながらもメアリーは笑顔でお礼を言う。
「ありがとうございます!おばあちゃん!」
「……お婆ちゃんは止めな。特別な呼び方だからね。
孫にしか呼ばせたくない。そうだね…………。」
老婆は物思いにふけり。
「……器。」
一言声に発し。
「これから先あんたは色々大変だ。
誰かに目をつけられる前に目をかけてもらいな。
才能を亡くした空っぽだからこそ価値が見い出せる。
器の神に祈ってるといいよ。
アイツは特別な奴が好きだからね。」




