第99話 完成された未完成
エンハンスの首が落ちる。テーブルから転げ落ち。
グシャリと原形もなく崩れ落ちた。
「エンハンス。ワタシからもお願いだ。
ジェシカの魂を返してやってほしい。
勿論あんたの自由だ。ワタシの願いには
なんの価値も無い事はワタシが一番知っている。」
老婆は頭は下げずに瞳を落とす。
これが老婆の出来る限界の行動。
「…………シングルハート様の仰る物がどれかわからりませぬ。……ですので……ですので……。」
エンハンスは8つの腕であらゆる臓器を掴み。
テーブルに差し出す。苦痛など顔には出さない。
敬愛する第一位が見ている。情けない姿は晒せない。
老婆は一瞬躊躇いながらもその名を口に出す。
「返すのは……金獅子の魂だ。他はどうでもいい……。」
老婆の心ある言葉にエンハンスは喜々とし
はそれらを「是は満たされた。」
一言を発した瞬間。魂が天へと昇っていく。
「…………ところで隣の亜人は誰だい?」
老婆はエリーを睨みつける。
エリーは唇を軽く噛み歯の震えを止ませ。
「この子はリア。見ての通りですから
一人だと心配でしたから連れてきましたの。」
老婆がリアの瞳を覗き込む。
「…………あぁ。あの葬儀の時にいた亜人か。
また随分見窄らしくなったね。
なんでこんな事になってるんだい?」
エリーは自分にわかる限りで老婆に説明をする。
「ーーー。リアを戻す為にジェシカと
龍の血を取りに行く所でしたの。」
老婆はため息を吐き出し
「あの子はホントに……龍の血なんか飲んだらこの亜人は亜人ですらなくなる。あれはただの毒だ。
不死身の血だとか万能薬とか言われてるから、
あながち間違いじゃないんだけどね…………。
世界の永久機関にされる前に気付けてよかったね。
尤も……龍種が与えるという意志をもって初めて毒になるから、飲んだ奴は本当に少ないよ。」
ジェシカは可能性としか言わなかった。
龍の血はダメ。残りの選択肢。神酒はダメ。
アンとアサミ。ジェシカの亡骸を見ていた紅い髪の少女。あれが二人のうちのどちらか。
でもあの子には頼めそうもない。
そして……その選択も間違いの可能性がある。
エリーは小さなバッグから紙を取り出そうとする。が
「エリー。そろそろ止めとけよ。シングルハートが怒る。」
ダークにその行動を止められる。
老婆は不敵に笑いながら。
「怒りゃしないよ。でも先にこちらの話しを終わらせたい。その後話を聞こうか。
その間……エリーヴァイス。適当な椅子に座りな。」
老婆の一言により一瞬で……周り全ての者の表情が一変する。明るく五月蝿いダークは口をつぐみ。
ヴィジャとトルコマン頑なに沈黙を守り
エンハンスは絶望の表情でエリーヴァイスを見つめる。
「えっと…………。」
エリーは空席を見渡す。一番良さげなのはトルコマンの隣。エンハンスの隣などゴメンだ。
あとは周りから少し離れた位置になってしまう。
エリーはトルコマンの隣の椅子に触れようとし
「……じゃあ……一番角。……あそこに。」
エンハンスの隣の空席を挟んだ椅子。
過去何度も空席だった椅子に座り。
「ん?エンハンスの席じゃないの?そこファティマの席だぞ?なんで座れるの?」
ダークは興味深そうにシングルハートに尋ね。
「さあ?座れるから座れる。ワタシは知らないよ。
各々好きに喋って構わないよ。エリーヴァイスの契約についてだ。納得いかない者はいるかい?」
老婆は周りに確認をとる。
エンハンスだけは見ずに無視するかのように。
「俺は満足してるぜ!かな〜り知識不足なところがあるがよく見つけましたって感じだな。」
「我は不満などない。」
「……ねぇなァ。」
「わたくしの契約内容ってなんなんですの?」
エリーは割って入るように口を挟む。
老婆は少しキョトンとしながら
「ダークは良いとしてヴィジャ。トルコマン。
言ってないのかい?」
「ああ。言ってねぇよォ。」「同じに。」
「まぁ、あんた等が言いたくないならその辺は濁そうか。大方此処に来る事の意味も教えてもらってないんだろう。
そうだね……。どう言おうかね……。
三位と四位はあんたに従う。強制力はかなり強い。あんたが知りたいのはデメリットだろ?」
老婆の問い掛けにこくんと頷くエリー。
悪魔との契約内容を未だに知らない。それが自分にとって恐ろしい。この力の代償がなんなのか。
「デメリットはヴィジャに関してはさして何もないね。三位は契約が結べる事態稀だ。でもヴィジャはキチンと貰ってるから気にしなくて良いよ。
トルコマンも……ちょっとずつ貰ってるよ。
ワタシの契約だから又貸しになってるから……。
エリーヴァイス。あんたは一切何も奪われる事は無い。」
何処か……違和感があった。自身の契約についての無知さ。それにこの待遇は何処か異常で……歪で……吐き気を催す程の……悪寒。
「わたしは貰えるばかりでよろしいと言うことですの?」
老婆はその言葉に対し正直に答える。
「そうだね。あんたは貰うばかり。
奪うばかり。支配するばかりでいい。
世界的に言えば魔女その者だよ。
与えるのは悪魔達。
差し出されたのはあんたの妹。
メアリー.ヴァイスなんだから気にしなくて良いよ。」




