↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
72/115

第72話 ドアの前


二十五日目、午後十一時四十七分。


自動ドアの前に、六体いた。


さっきまで三体だった。


直人は眠れずに見ていた。


ガラス越しに重なる顔。


一体がドアへ肩をぶつける。


センサーが反応した。


ドアが開く。


「開いた!」


高校生が叫んだ。


全員が身体を起こした。


秩序がカウンターから歩いてきた。


急いでいなかった。


◇


一体目の腕が店内へ入る。


秩序がその手首を取った。


軽く横へ動かしたように見えた。


ゾンビの身体が視界から消えた。


二体目。


同じだった。


三体目はドア枠へぶつかった。


鈍い音。


秩序は制服の袖口を一度直した。


「店内での危険行為はご遠慮ください」


誰に言ったのか分からない。


ゾンビは聞いていない。


残りも寄ってくる。


秩序はドアの外へ出た。


◇


「閉めろよ」


高校生が呟いた。


誰も閉めに行かなかった。


行けるわけがない。


秩序は駐車場で一体を退ける。


次。


次。


動きに焦りがない。


呼吸も乱れない。


声も上がらない。


最後の一体を入口から離したあと、床に落ちていた紙片を拾った。


ゴミ箱へ捨てる。


それから戻ってきた。


「お待たせいたしました」


何を待っていたのか、直人には分からなかった。


◇


午前零時二分。


「怖くないんですか」


由佳が聞いた。


熱は三七・五。


布団から身体だけ起こしている。


秩序はカウンターの中に戻っていた。


「何がでしょうか」


「外の人たち」


由佳は言ってから言い直した。


「……ゾンビ」


秩序は一拍置いた。


「営業に支障が生じる場合は対応いたします」


「そうじゃなくて、怖いとか」


「ご注文でしょうか」


由佳は黙った。


秩序は次の客へ向いた。


◇


午前零時十九分。


また二体来た。


今度は渾沌だった。


「はーい、ちょっと失礼しまーす!」


明るい声。


一体を押し出す。


もう一体を持ち上げる。


駐車場の端へ運ぶ。


「そこ危ないですよー!」


高校生が口を開けたまま見ている。


「何が危ないんだよ」


黒瀬が言った。


高校生は答えない。


渾沌が戻る。


自動ドアの敷居を確認する。


汚れを見つける。


モップを持ってくる。


拭く。


「そこまでやる?」


美咲が言った。


「店だからじゃない?」


直人が答えた。


自分で言って、気味が悪くなった。


◇


午前零時四十一分。


外にはまだいる。


道路に十体以上。


駐車場にも影が動く。


それでも入口の前だけは空いていた。


客が来られるように。


来る客など、ほとんどいないのに。


「全部倒せるんじゃないの」


高校生が言った。


黒瀬が窓を見る。


「たぶんな」


「じゃあ、なんでやらない」


「知らない」


直人は答えを考えなかった。


クルーが何をできるか。


何をしたいか。


どこまでを仕事だと思っているか。


人間側が勝手に一本へ繋げると、昨日と同じことになる。


できそうだから、する。


強いから、救う。


そういう約束は、一度もされていない。


◇


午前一時八分。


自動ドアの前へ、今度は四体。


一体がガラスを叩く。


二体目が押す。


三体目が重なる。


直人の背中に汗が出た。


由佳が布団を握る。


高校生が立つ。


黒瀬は座ったまま入口を見ている。


秩序がレジを打っていた。


電子音。


「五百八十円でございます」


客が金を出す。


釣り銭を渡す。


「ありがとうございました」


そのあとで、秩序はドアへ向かった。


走らない。


一体目。


二体目。


三体目。


四体目。


全部、入口から消えた。


秩序は戻る。


レジの前を通る。


時計を見ることもしなかった。


◇


午前一時二十三分。


「慣れてるのかな」


由佳が言った。


直人は首を振った。


「分からない」


「でも、初めてじゃないみたい」


「初めてでも同じかもしれない」


由佳が直人を見る。


「どういう意味?」


直人にも説明できなかった。


クルーには、経験して慣れた人間の鈍さがない。


怖さを押し殺しているようにも見えない。


勇気を出しているようにも。


最初から、そこに恐怖という手順がないように見えた。


それが一番、人間から遠かった。


◇


午前一時五十一分。


渾沌がポテトを揚げている。


秩序がレジに立っている。


由佳はまた横になった。


美咲が次の検温時刻を書く。


黒瀬は水を飲む。


高校生は入口から三席離れた場所へ布団を移した。


誰もドアのそばで寝ようとはしない。


外にはまだゾンビがいる。


クルーは気にしていないように見える。


違うのかもしれない。


ただ、気にしている証拠が一つもなかった。


午前一時五十三分。


自動ドアの前に、また影が立った。


直人の身体が固くなる。


秩序はレジの金額を読み上げた。


渾沌はポテトへ塩を振った。


影がドアへ触れる。


人間だけが、それを待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。