第184話 朝食は別の場所で
百八十六日目。
鍋の蓋が開いた。
湯気の向こうに、昨日の残りを煮直した豆と野菜、細かく切った肉が見える。
直人は器を受け取った。
「熱いから気をつけて」
「ありがとう」
隣で高校生が一口食べる。
「薄い」
向かいから声が飛んだ。
「塩、昨日で減ったんだよ」
「今日持ってきます」
直人は豆を噛みながら言う。
「昨日頼まれた分もある。帰りに確認しよう」
子どもは豆を一粒つまみ、嫌そうに眺めた。
「これきらい」
「昨日も食べたでしょ」
「きょうもきらい」
美咲に返して、また一粒食べる。
高校生が直人を見る。
「店行けば、もっとちゃんとしたの食べられますけどね」
「うん」
「行きます?」
直人の器には、まだ豆が残っている。
「食べてからでいい」
「ですよね」
森田が入ってきた。
「まだ食ってる?」
「もうすぐ」
「荷物見るぞ」
森田も器を受け取り、空いた席へ座る。一口すすった。
「薄いな」
高校生が顔を上げた。
「それもう聞きました」
食べ終えると、三人は車の前で箱を確かめた。
「一件目、塩追加」
高校生が地図を覗く。
「学校の分もですよね」
「余裕あれば」
「PANDEMONIUM寄ります?」
直人は経路を指でなぞった。
「帰りに時間あったら」
車は学校を出て、PANDEMONIUMとは反対方向へ曲がった。
三件目を終えた帰り道、高校生が腹を押さえる。
「腹減りました?」
「まだ」
「朝の豆、意外と持ちますね」
「薄かったけどな」
「まだ言う」
道の先にPANDEMONIUMの看板が見えた。
高校生が地図から顔を上げる。
「寄ります?」
直人は看板を見た。それから、自分の腹に手を当てた。
「まだいい」
車はそのまま走った。




