第182話 延長しない
百八十五日目。
直人の端末が震えた。
《利用時間終了》
その下には《四時間延長》のボタンが残っている。
直人は画面を見た。
隣で毛布にくるまっていた男が顔を上げる。
「切れた?」
「うん」
「延長は?」
「しない」
男は一度だけ直人を見た。
「そっか」
それだけだった。
直人は小さな袋を肩に掛けた。画面にはまだ、ここに残る方法が表示されている。
押さずに入口へ向かう。
カウンターの前で足を止めた。
「じゃあ、帰る」
いつもの声が返る。
半年近くいたことを確認されることも、特別な手続きを求められることもなかった。
扉を開ける。
夜気が頬に触れた。
道路の遠くに影が動いている。直人は位置を確かめ、学校へ向かう道を選んだ。
背後で扉が閉まる。
一本目の交差点で端末を見る。
七時、朝食。
八時半、配送確認。
九時、出発。
直人は画面を閉じた。
学校の門では見張りが待っていた。
「遅かったな」
「期限までいた」
「延長した?」
「しなかった」
見張りが門を開ける。
「じゃあ湯、まだあるぞ」
「助かる」
部屋には寝具があり、棚には着替えがある。直人は袋を床へ置いた。
端末が震える。
《帰りました?》
高校生からだった。
《帰った》
《明日七時で》
《了解》
端末を伏せる。
しばらくして、直人は寝具へ横になった。
店の明かりはここから見えない。
目を閉じる前に、端末をもう一度手に取る。利用時間の表示はない。明日の予定だけが残っていた。
そのころPANDEMONIUMでは、別の客が延長し、食事を終えた客が扉を開けた。
ベルが鳴る。
クルーは次の番号札を受け取った。




