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第180話 延長する人、しない人


百八十五日目。


カウンター脇で端末が鳴った。


長く店に残っている男が画面を見る。


「あと十分か」


高校生が横から覗いた。


「延長します?」


「する」


男は迷わず手続きを進める。画面に四時間と出た。


同じテーブルにいた女の端末も鳴る。


「そっちも?」


「うん」


「延長?」


女は窓の外を見た。


「しない。学校戻る」


「夕飯は?」


「向こうで食べる」


「じゃあまた」


「またね」


女は荷物を一つ持って店を出た。男は同じ席に残り、端末をポケットへしまった。


配送から戻った直人へ、高校生がその話をした。


「同時に期限来たんですよ。一人延長して、一人帰りました」


「そう」


「前なら、帰る方ちょっと心配しましたよね」


直人は濡れた上着を脱ぐ。


「今も心配はするよ」


「止めないけど?」


「帰る場所あるから帰るんだろ」


店内には、まだ寝具を置いている人がいる。私物の箱もある。


別の客は食事を終えるとすぐ帰った。


「今日はこっちで寝る」


別の男が言った。


「団地、何かあった?」


「いや」


「じゃあなんで?」


男は毛布を抱え直す。


「今日はこっちが楽だから」


「そっか」


美咲と子どもも食事に来た。


食べ終えるころ、美咲の端末に残り時間が出る。


高校生が聞いた。


「延長する?」


「今日はしない」


子どもが棚へ走り、赤い色鉛筆を戻した。


「かえる」


「うん、帰ろう」


「それ持ってかないの?」


直人が色鉛筆を指す。


子どもは首を振る。


「またつかう」


二人は学校へ帰った。


しばらくして、高校生も自分の端末を見る。


「俺、帰ります」


「まだ時間あるだろ」


「明日早いんで」


「学校?」


「朝から向こうの片づけ」


高校生は残り時間を閉じ、荷物を持った。


入口で振り返る。


「直人さんは?」


「もう少しいる」


「延長する?」


直人は自分の端末を見る。まだ一時間以上ある。


「分からない」


「珍しいですね」


「そう?」


「前なら先に延長してた」


高校生は手を振って出ていった。


直人は席へ戻る。


長期滞在の男は毛布を広げている。さっき学校へ帰った女の席には、別の客が座った。美咲たちが使っていたテーブルは空いている。


カウンター脇で、また誰かの端末が鳴った。


「延長お願いします」


少し離れた席では、別の客が上着を着る。


「ごちそうさま」


ベルが鳴り、一人が出ていく。


直人の端末にも残り時間が表示された。


親指が、いつもの延長ボタンの近くまで動く。


そこで止まった。


直人は画面を閉じた。


長期滞在の男が横になる。


外では、さっき帰った客のライトが学校の方角へ遠ざかっていった。

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