第177話 半年目
百八十二日目。
直人は学校で目を覚ました。
廊下では誰かが湯を沸かしている。壁のカレンダーを見て、日付を数えた。
最初の日から、ほぼ半年。
「半年か」
朝食を取りにPANDEMONIUMへ行く。
入口のベルが鳴り、クルーがいつも通り応じた。
直人は注文を受け取ってから、カウンターを見る。
「なあ」
クルーが直人を見る。
「最初の日から、ずっといるよな」
返事を聞いて席へ向かった。
高校生が来る。
「何見てるんです?」
「クルー」
「いつもいるじゃないですか」
「そうなんだけど」
直人は端末の電卓を開いた。
百八十二日。二十四時間。
四千三百六十八。
「何です、それ」
「半年を時間にした」
「暇なんですか」
「今ちょっと後悔してる」
直人はもう一度カウンターを見る。
クルーは注文を取り、バーガーを渡し、次の客へ向く。
「四千時間以上だぞ」
「何が?」
「俺、あの人が寝てるところ見たことない」
高校生も見る。
「俺もないです」
「休んでるところは?」
「知らない」
「交代してるんじゃないですか」
「同じ顔で?」
「似てるとか」
「半年ずっと?」
「じゃあ……休まなくていい?」
直人は画面の四三六八を見る。
「そっちの方が嫌だな」
「ですよね」
美咲が来た。
直人は画面を見せる。
「何これ」
「半年の時間」
「うん」
「クルー、ずっといる」
美咲はカウンターを見る。
「いるね」
「寝てるの見たことある?」
「ない」
「おかしくない?」
美咲は少し考えた。
「今さら?」
黒瀬にも聞いた。
「寝てるクルー見たことある?」
「ない」
「半年だぞ」
「そうだな」
「気にならない?」
黒瀬はコーヒーを飲む。
「前から変だろ、この店」
直人は数字を閉じた。
クルーは相変わらず注文を取っている。
「もしかして、俺らが見てない時に寝てるとか」
高校生が言う。
「二晩誰も泊まらなかった時も営業してた」
「ああ」
「夜中も客いた」
「じゃあ無理か」
「分からない」
バックヤードの扉が視界に入る。
直人はそちらへ行かず、バーガーの包み紙を畳んだ。
子どもが棚の赤い色鉛筆で絵を描いている。
直人は隣に座った。
「半年って長いと思う?」
「ながい」
「どのくらい?」
子どもは考える。
「いっぱい寝る」
直人は笑った。
「そうだな」
学校へ帰る前、もう一度カウンターを見る。
朝に見たクルーが、客へバーガーを渡している。
疲れているのか。疲れないのか。
眠るのか。眠らないのか。
直人には分からない。
端末には、さっき閉じた電卓の履歴が残っていた。
4368。
直人は履歴も閉じた。
入口のベルを鳴らして外へ出る。
背後でもう一度ベルが鳴った。
次の客が店へ入っていった。




