第169話 森田の別の時間
百二十五日目。
学校から来た森田は、PANDEMONIUMで朝食を取っていた。
高校生が配送表を持ってくる。
「今日、団地便どうします?」
森田はバーガーを置いた。
「今日は俺、行かないよ」
「何かあるんですか」
「学校で屋根やる」
「午後なら?」
「分かんない。終わったら洗濯するし」
高校生は配送表を見る。
「じゃあ別の人探します」
「うん」
森田はまた食べ始めた。
食べ終えると、トレーを戻す。
「ごちそうさま」
「もう戻るんですか」
「八時に屋根」
「会計は?」
「したよ」
高校生は一瞬、別の意味で聞いた自分に気づいた。
以前、森田は店内の細かな記録や金の確認を手伝うことがあった。
今は、自分の朝食の会計だけ済ませていた。
森田が帰ったあと、団地便は別の二人で出た。
配送はいつも通り進んだ。
学校から通信が入る。
『森田、そっちいる?』
「いません」
『じゃあ屋根の上か』
通信はそれで終わった。
昼に学校から来た女へ、高校生が聞く。
「森田、屋根どうでした?」
「午前で終わったよ」
「今は?」
「川の方じゃない?」
「何しに?」
「洗濯」
高校生は頷いた。
配送表には何も書かなかった。
午後、森田がまた店へ来た。手には濡れた布を入れた袋がある。
「コーヒー」
「屋根終わったんですね」
「終わった」
「洗濯も?」
「干してきた」
「このあと暇です?」
森田が笑う。
「暇だったら何?」
高校生も笑った。
「いや、聞いただけです」
森田は窓際へ座ってコーヒーを飲んだ。
高校生が段ボールを運んでも手を出さない。配送表も見ない。店番にも入らない。
コーヒーが半分ほどになったころ、高校生が声をかけた。
「明日、団地便お願いできます?」
森田は少し考える。
「朝なら」
「午後は?」
「学校で机動かすかも」
「じゃあ朝で」
「決まったら連絡して」
森田はコーヒーを飲み終え、濡れた布の袋を持って立った。
「夕飯は?」
「学校」
「また鍋?」
「今日は焼くらしい」
「何を?」
「知らない」
森田は笑って帰った。
夜、高校生は翌日の配送欄を開いた。
《朝 団地 森田・確認待ち》
そこまで書いて、ペンを止める。
森田が今日直した屋根のことも、川へ洗濯に行ったことも、学校で食べる夕飯のことも書く欄はない。
高校生は配送表を閉じた。
翌朝、森田に頼むかもしれない用事だけが、一行残った。




