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第168話 朝の便


百二十四日目。


朝早く、入口のベルが鳴った。


高校生はまだ店にいた。昨日予定表へ書いた学校の窓補修へ向かうまで、少し時間がある。


入ってきた男は肩から大きな袋を下ろした。


「これ、団地まで行く?」


直人が袋を見る。


「今日なら」


「朝のうちに着くと助かる」


袋の中には、学校で外した窓枠の金具が入っていた。団地に、錆を落として使えるか見られる人がいるらしい。


「急ぎ?」


高校生が聞く。


「急ぎじゃない。でも朝なら、その人いる。昼は畑」


今日の団地便は午後のつもりだった。


高校生が配送棚を見る。


「朝、一本出す?」


「金具だけで?」


「団地行き、他にないですか」


石鹸の空箱。返す布。紙袋。学校から預かった短いメモ。


今日中ならよかった物が、いくつかあった。


「あるな」


高校生は配送表の余白へ書く。


《朝 団地》


「毎朝?」


直人が聞く。


「いや、今日」


「何時発?」


「荷物まとまったら」


直人は何も書き足さなかった。


車に積んだのは四つ。金具、返却する布、紙袋、短いメモ。


バーガーも水もない。


高校生が助手席へ乗る。


「俺、学校あるんですけど」


「団地から回れば間に合う」


団地では見張りの男が門の近くにいた。


「早いね」


「朝の便です」


高校生が言うと、男が笑った。


「そんなのあった?」


「今日できました」


金具を見る人もまだいた。袋を開けて、一つずつ確かめる。


「これなら昼までに錆落とせる」


「学校に戻します?」


「使えそうならな」


その横から団地の女が小さな箱を差し出した。


「学校行くなら、これ持ってって」


中には釘と短いネジが混ざっている。


「窓に使えるかもって」


高校生が受け取る。


直人が聞いた。


「店に持ち帰る?」


「俺、このまま学校行くんで」


「じゃあ持ってけ」


学校の前で、高校生は工具箱と団地の小箱を持って車を降りた。


「帰りは?」


「分かんない。終わったら戻ります」


「了解」


直人の車はそのまま店へ戻った。


高校生は小箱を持って南棟へ入る。昨日の続きだった。


しばらくして団地から連絡が来た。


『金具、二つ使える。一本は駄目』


「戻すの、いつ?」


直人が聞く。


『今日じゃなくていい』


「了解」


『朝の便、明日もある?』


直人は配送表を見る。


《朝 団地》


今日書かれた一行だけがある。


「明日は決めてない」


『そっか』


それで話は終わった。


学校からも高校生の声が届いた。


『団地のネジ、使えました』


「足りた?」


『今日は』


「戻る?」


『昼食べてから』


「了解」


高校生が戻ってくると、配送表を覗いた。


「朝便、便利でしたね」


「今日はな」


「毎日やります?」


「必要なら」


「時間決める?」


「必要?」


高校生は《朝 団地》を指でなぞった。


「まだいいか」


午後、団地へ運ぶ物はなかった。


車は出なかった。


夕方、高校生は配送表を閉じる前に翌日の欄を開く。


朝。


空白。


午後。


空白。


直人が横から見る。


「朝便、書かないんですか」


「明日の荷物ないので」


「うん」


高校生は今日の《朝 団地》が残るページをめくった。


翌日の白い欄を、そのまま閉じた。

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