第166話 学校を見に行く
百二十二日目。
由佳がバーガーを半分食べたところで言った。
「今日、学校見に行ってくる」
高校生が顔を上げる。
「いつもの学校?」
「うん」
「何しに?」
「学校見る」
「だから、何を」
由佳は少し考えた。
「来年も使えるか」
高校生の手が止まった。
「来年?」
「うん」
「そんな先のこと決めるの?」
「決めるんじゃなくて、見るだけ」
残りを食べ終えるころ、学校から女が迎えに来た。
「由佳、行ける?」
「行ける」
女は南側の棟に、窓の割れていない教室がいくつかあると話した。
「子どもが増えたら、勉強する場所にできるか見たい」
「増えるんですか」
高校生が聞く。
「分からない」
女は肩をすくめた。
「増えなくても、今いる子は来年もいるし」
由佳が立つ。
「昼、戻る?」
「分かんない」
「バーガー持ってく?」
「向こうで食べる」
「挟んだやつ?」
「たぶん」
由佳は笑って店を出た。
高校生は注文票へ《昼 由佳》と書きかけ、ペンを戻した。
配送から戻った直人にも、由佳が学校へ行ったことを話した。
「何かあった?」
「来年の教室見るって」
直人が荷物を置く。
「来年?」
「同じ反応しました」
「そりゃするだろ」
昼前、学校から通信が入った。
『南棟二階、三部屋使えそう』
「直すんですか」
『まだ。今日は見るだけ』
「由佳は?」
『窓の寸法測ってる』
「なんで由佳が」
『本人がやるって』
奥から声が飛んだ。
『ここ机入るよ!』
由佳だった。
通信が切れる。
高校生は配送表の横へ、学校から届いたメモを置いた。
《南棟二階 三室》
《窓 要補修》
《机 十二くらい》
午後、由佳が戻ってきた。靴に白い埃がついている。
「どうだった?」
「二階、使えそう」
「来年から学校?」
「まだ決めてない」
「じゃあ何決めたの」
由佳は水を飲んだ。
「来週、窓直す」
「それは決めたんだ」
「割れたままだと雨入るから」
高校生は少し間を置いた。
「勉強したいの?」
「分かんない」
「学校行きたい?」
「それも分かんない」
「じゃあ、なんで見に行ったの」
由佳は紙コップを指先で回した。
「あとで行きたくなった時、行けないの嫌だから」
高校生は何も言わなかった。
由佳は学校から借りた見取り図を広げた。
南棟二階。三つの教室に丸がついている。
「ここ、子ども用?」
「そうなるかも」
「何歳まで?」
「知らない」
「先生いる?」
「いない」
「じゃあ誰が教えるの」
「それもこれから」
学校へ戻る女が、窓枠の寸法を書いた紙を受け取った。
「ガラス探すんですか」
「ガラスじゃなくても塞げればいい」
「冬までに?」
「その前には」
「来年のため?」
女は笑った。
「来週雨降っても困るから」
夕方、由佳は鞄を背負った。
「今日は泊まらない?」
「学校戻る」
「明日も教室見るの?」
「明日は畑」
「学校の話は?」
「来週」
扉が閉まったあと、高校生はカウンターに残った見取り図を見る。
三つの丸。
そのうち一つには、由佳の字で小さく書き足されていた。
《窓 来週》
高校生は見取り図を配送表の下へ重ねず、その横へ置いた。




