第165話 四か月目
百二十一日目。
高校生は宿泊表へ日付を書き、ペンを止めた。
《百二十一日目》
「四か月か」
直人が横から覗く。
「だいたいな」
「だいたい?」
「月によって日数違うだろ」
「そういう話します?」
「お前が言ったんだろ」
高校生は笑って、昨夜使われた三枚の毛布を畳んだ。
七つある常設寝床のうち、使ったのは三つ。余った枚数はもう数えない。三人分を片づければ朝の仕事は終わる。
起きてきた古参の男に、高校生は言った。
「今日で四か月らしいですよ」
「何が?」
「最初の日から」
男はバーガーを持ったまま少し考える。
「そんな経った?」
「経ったみたいです」
「俺、何日ここいるんだろ」
「数えます?」
「いい」
男は続きを食べた。
その朝、学校から五人来た。
朝食を食べる人。持ち帰る人。コーヒーだけ飲む人。
一人が帰り際に言う。
「午後また来る」
「延長?」
「違う。工具借りた人と待ち合わせ」
「了解」
少しして団地の女が、紙袋を二つ持ってきた。
「これ、学校に渡せる?」
「何です?」
「乾かした野菜。向こうから布もらったから、その分」
高校生は受け取って配送棚へ置く。
「配送に載せます」
「助かる」
女はそのままバーガーを一つ注文した。
昼前には南東から三人来た。その一人は、以前初めて店へ来た女だった。
「また通ったから寄った」
「学校ですか?」
「今日は団地」
「そっちにも行くんだ」
「布見たいって言われて」
女は迷わず席へ座った。
高校生も、もう客として説明する必要を感じなかった。
昼になると客席が埋まった。
前日に戻したテーブルにも三人が座る。壁際の寝床は畳まれたままだ。
店内には十人以上いる。それでも、今夜ここで眠る予定なのは三人だった。
客が引いたあと、高校生は宿泊表の古いページをめくった。
名前で埋まった日。
余白のほとんどない日。
最近のページには、三人、四人、二人、三人。
「減ったなあ」
由佳が後ろから覗く。
「また見てるの?」
「四か月だから」
「何かするの?」
「別に」
「じゃあ閉じれば?」
高校生は素直に閉じた。
午後、朝に待ち合わせを約束していた二人が来た。
工具の寸法を紙へ書き、バーガーを一つずつ食べ、話が済むと出ていく。
配送棚には、団地から預かった紙袋がまだある。
高校生が直人に聞いた。
「今、外で寝てる人の方が多いですよね」
「店に来る人の中では?」
「たぶん」
「じゃあそうなんじゃない」
「ちゃんと数えないんですか」
「必要?」
高校生は少し考えた。
「……別に」
夕食時になると、学校から来た人も、団地から来た人も、南東から来た人も、それぞれ食べて帰っていった。
古参の男が壁際へ毛布を運ぶ。もう二人も自分の寝床を作る。
三つ。
それで終わった。
高校生は宿泊表を開かなかった。
入口のベルが鳴る。
南東から来た女が戻ってきた。朝とは違う布包みを抱えている。
「団地、行ってきた」
「どうでした?」
「これと交換した」
布包みを少し持ち上げる。
「バーガー一個」
高校生が注文票を取る。
女は空いているテーブルへ座った。
壁際では、三枚の毛布が広げられている。
そのどちらにも、高校生は人数を書き足さなかった。




