第164話 それでも24時間
百十三日目。
午前二時を回っても、入口の札は《OPEN》だった。
壁際では三人が眠っている。昨日、寝床を減らして戻したテーブルも空いていた。
高校生が欠伸を噛み殺す。
「今、閉めても誰も困らなそうですね」
直人は客席から厨房を見る。
渾沌がソースを補充している。その奥でも、クルーの手は止まらない。
「閉めないんですかね」
「さあ」
「聞かないんです?」
直人は《OPEN》の札を見る。
「開いてるなら、それでいいだろ」
二人が話している間にも、厨房では次の注文があるかのように準備が続いていた。
客はいない。
誰かが助けを求めているわけでもない。
それでも火は落ちない。
高校生が椅子へ深く座った。
「前は夜中も人いましたよね」
「いたな」
「今はいない」
「いないな」
ベルが鳴ったのは、それからしばらくしてからだった。
学校の男が入ってくる。
「見回り帰り」
男はメニューを一度見て、言った。
「コーヒーだけ」
クルーが注文を受ける。
高校生が小声で言った。
「開いててよかった、ってやつですかね」
男に聞こえたらしい。
「閉まってたら帰って寝てたよ」
温かいカップを受け取り、窓際へ座る。
必要不可欠ではなかった。
飲み終えると、男は普通に帰っていった。
高校生が空いた席を見る。
「一人来ましたね」
「開けてたらな」
「一人のために開けてたわけじゃない」
直人は答えず、壁にもたれた。
朝になると、眠っていた男が起きて注文した。
学校から三人、団地から二人。戻したテーブルにも客が座る。
食べ終えれば出ていき、席はまた空いた。
昼には持ち帰りの注文が重なった。
午後、客が途切れる。
高校生は窓の外を見た。
「暇ですね」
「今はな」
「夜も暇で、昼も暇な時間あるのに、ずっと開いてるんですね」
直人は厨房へ目をやる。
クルーは次の客を待っている。
「そうみたいだな」
夕方になると、学校帰り、団地帰り、南東へ戻る途中の人間が順に入ってきた。
客席は埋まり、また空く。
夜が深くなる。
高校生が帰り際、入口の札を見た。
《OPEN》
朝も、昼も、誰もいなかった深夜も、同じ向きだった。
高校生は札に触れず、扉を開けた。
ベルが鳴る。
背後で、次の客へ声がかかった。
「いらっしゃいませ」




