第163話 減った寝床
百十二日目。
高校生は朝から毛布を畳んでいた。
一枚。二枚。三枚。
そこで終わった。
棚には使われなかった毛布が重なっている。
「三人だけ?」
直人が宿泊表を見る。
「昨日はな」
少し前まで、夜の欄には名前が並んでいた。
学校へ移った人。団地へ移った人。南東で寝床を作った人。一晩だけ戻り、また出ていった人。
「減りましたね」
「減ったな」
起きてきた古参の男が、毛布の棚を見た。
「いっぱい余ってるな」
「前は足りない日もあったのに」
「懐かしいな」
高校生は手を止める。
「寂しくないですか」
男は少し考えた。
「静かにはなった」
朝食に来た由佳にも、高校生は同じ話をした。
「昨日、泊まったの三人だったんだって」
「へえ」
「少なくない?」
由佳はバーガーを持ったまま壁際を見る。
「みんな、寝るとこあるんでしょ」
「まあ」
「じゃあいいじゃん」
食べ終えると、由佳も帰った。
高校生は床を掃いた。
以前なら、椅子と毛布の間を縫い、人を起こさないよう箒を動かした場所を、今日はまっすぐ横切れる。
掃除はすぐ終わった。
店が広くなったわけではない。
床が見えるようになっていた。
昼前、学校から来た二人が壁際を見た。
「そこ、空いたね」
「寝る人減ったから」
「テーブル戻せば?」
高校生が振り返る。
寝床を増やすため、以前そこから寄せたテーブルがある。
「戻していいのかな」
「なんで駄目なの?」
答えられなかった。
高校生と直人で一台を運ぶ。
脚が床を擦った。
古参の男が毛布のそばから見る。
「そこ戻すの?」
「邪魔?」
「別に」
元の位置まで動かすと、寝床一つ分の空間がなくなった。
高校生は少し離れて眺めた。
「これで、泊まる人増えたらどうします?」
「また動かせばいい」
直人が答える。
「戻してもいいんだ」
「固定してないからな」
昼には五人が来た。
戻したテーブルにも二人座る。
「ここ前からあった?」
「前はありました」
「今もあるじゃん」
「そうですね」
客はそれ以上気にせず、バーガーを食べた。
高校生だけが、何度かそのテーブルを見た。
客が帰ったあと、宿泊表の横にある数字へペンを置く。
《常設寝床 8》
八に線を引いた。
《常設寝床 7》
増やすときには何度も書き換えた数字だった。
減らすのは初めてだった。
午後、団地の女が食事に来て、戻ったテーブルへ座った。
「席増えた?」
「一個戻しました」
「いいね。昼、座れない時あるから」
「寝床減ったんですけど」
女は気にした様子もない。
「足りなきゃ戻せば?」
高校生は朝の会話を思い出した。
固定していない。
夕食時には、そのテーブルを三人が使った。
壁際には七つの寝床を作れる。今夜使う予定は三つだけだった。
高校生は余った毛布を出さなかった。
夜、古参の男を含む三人がそれぞれ横になる。
入口側から見ると、以前より床が見えた。椅子が見えた。戻したテーブルの天板も見えた。
高校生は宿泊表を閉じる。
《常設寝床 7》
その向こうで、昼に戻したテーブルには何も載っていない。
明日の客を待つように、椅子だけが二脚、きちんと収まっていた。




