↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
162/195

第162話 延長しない人


百十一日目。


昼には少し早い時間から、客が続いた。


学校から二人。団地から一人。南東から来た男が一人。


四人ともバーガーを食べ、四人とも帰った。


高校生は、カウンター脇の延長票に一度も触れなかった。


学校の二人が席を立つ。


「もう戻るんですか」


「午後、畑」


「少し休んでいけば?」


「学校でも休めるよ」


一人が笑って、扉を押した。


次に団地の女が食べ終える。高校生が水を足そうとすると、もう鞄を肩に掛けていた。


「急いでます?」


「別に。洗濯物干してきたから」


「延長もできますけど」


「知ってる」


女はそのまま帰った。


危険でも、食料不足でもない。


洗濯物だった。


南東から来た男にも、高校生は声をかけた。


「このあと、ここにいても大丈夫ですよ」


「なんで?」


「延長できるので」


男は壁の案内を見てから首を振った。


「いや、家帰るよ」


「家?」


「向こうに寝るところあるから。また飯は食いに来る」


ベルが鳴った。


昼を過ぎて由佳が来た。食べ終わると、やはり立つ。


「由佳も帰るの?」


「うん。学校で約束あるから」


「延長は?」


由佳が妙な顔をした。


「なんで?」


高校生は返事に詰まった。


「……なんとなく」


「また来るよ」


扉が閉まる。


高校生は延長票を見る。


昨日は、待ち合わせのため三時間だけ使うと言った男がいた。その前には、一晩だけ戻った人もいた。


今日は昼までに五人が食べ、誰も延長していない。


制度はそこにある。使われていないだけだった。


直人が厨房から出てきた。


「何見てる?」


「延長票」


「何かあった?」


「何もないです」


「じゃあ何で」


高校生は白い欄を指で押さえた。


「何もないから」


直人も見る。


「そういう日もあるだろ」


「前はなかったです」


そのあと、昨日工場へ部品を探しに行った二人が遅い昼食を取りに来た。


「見つかりました?」


「一本だけ。合いそうなのが」


食べながら学校へ持ち帰る部品の話をして、二人は二十分ほどで席を立った。


高校生は、今度は延長を勧めなかった。


夕方までに何人も扉を開けた。


注文票は増えた。バーガーも出た。空いた席には次の客が座った。


それでも延長票の今日の欄だけは白い。


昼寝から起きた古参の男が、店内を見回す。


「今日、静かだな」


「昼から七人来ましたよ」


「そうなの?」


「みんな帰りました」


男は少し驚いて、それから欠伸をした。


「俺、寝てたから知らなかった」


七人が食べて帰るあいだ、この店で暮らす男は眠っていた。


夜になると、男はいつもの壁際へ毛布を運んだ。


高校生はそれを手伝う。


「今日は誰も延長しませんでした」


「へえ」


「気にならない?」


男は毛布を広げながら、空いている客席を見た。


「飯食いに来たんだろ?」


「はい」


「じゃあ客じゃん」


高校生は白い延長票を見た。


それから、もう見なかった。


入口のベルが鳴る。


夕食を食べに来た二人が入ってくる。


高校生は注文票だけを取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。