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第161話 三時間だけ


百十日目。


昼過ぎ、男がバーガーを食べ終えた。


「三時間、ここにいていい?」


高校生が聞き返す。


「三時間?」


「三時半くらいまで」


「泊まるんじゃなくて?」


「うん。待ち合わせ」


高校生は延長票を一枚取った。


「毛布いります?」


「いらない」


「横になります?」


「ならない」


男は窓際へ移り、鞄から紙を出した。


部品の寸法らしい数字と図が並んでいる。


壁際では、古参の男が毛布をかぶって眠っていた。


高校生は延長票に二人の名前を書く。


片方の開始日は、ずっと前の日付だった。


もう片方には、今日の日付と終了予定だけを書く。


由佳が入ってきた。


窓際の男を見て、高校生へ聞く。


「新しい人?」


「三時間だけ」


「何それ」


「待ち合わせだって」


「ここで?」


「みたい」


由佳はそれ以上気にせず、バーガーを注文した。


しばらくして男が水を頼む。


高校生が持っていく。


「何待ってるんです?」


「学校から来る人」


「一緒にどこか行くんですか」


「西の工場」


男は紙を裏返した。


「ポンプの部品。合いそうなの探す」


「ここで待ち合わせ?」


「座れるし、分かりやすいから」


男はまた寸法を見始めた。


やがて古参の男が起きる。


窓際を見て、目をこする。


「誰?」


「待ち合わせの人」


「泊まる?」


「泊まらないです」


「延長してるのに?」


「三時間だけ」


古参の男が笑う。


「短いな」


「七十日と比べたら」


「比べるなよ」


学校から女が来た。


窓際の男が手を上げる。


「来た」


女は店へ入るなり言った。


「もう行ける?」


「あと少し見たい」


「じゃあ私も何か食べる」


女はカウンターへ行き、バーガーを注文した。


食べ終えるころには、二人の間に紙が広げられていた。


「この径ならあるかも」


「工場の北棟?」


「たぶん」


「暗くなる前に戻れる?」


「探すだけなら」


高校生が水を下げに来る。


「もう行きます?」


男が紙を畳んだ。


「うん」


高校生は延長票を見る。


「三時間たってないですよ」


「待ち合わせ終わったから」


「じゃあ終了で」


男は鞄へ紙をしまった。


女が先に扉を開ける。


「帰り、遅くなったらまた寄るかも」


男が言った。


高校生が聞く。


「泊まります?」


「それはその時決める」


「分かりました」


二人は西へ歩いていった。


高校生は延長票へ終了時刻を書く。


《予定 三時間》


その横に、実際の利用時間が残る。


二時間十九分。


夕方、古参の男が夕食を頼んだ。


「さっきの人、帰ってきた?」


「まだです」


「泊まるのかな」


「分かりません」


古参の男は「そっか」と言い、いつもの席へ戻った。


夜になっても二人は戻らなかった。


高校生は延長票を束ねる。


古参の男の票の上へ、今日終了した票を重ねた。


《二時間十九分》の数字が一瞬見え、それから紙の下へ隠れた。

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