第158話 約束しない便
百七日目。
学校から通信が入った。
『昨日の倉庫、缶詰だった』
高校生が受話器を取る。
「本当に?」
『豆が十八。果物が六。錆びてない』
「持ってきます?」
『今日は学校で六つ使う。残りどうする?』
高校生は直人を見る。
「そっちで決めていいよ」
『団地が豆四つ欲しいって』
「じゃあ、それは団地に」
高校生は在庫表へ目を落とす。
「店にも少し……」
「今はいらない」
直人が言った。
『じゃあ残りは倉庫に置いとく』
「分かりました」
通信を切った直後、今度は団地から呼び出しが入った。
『豆、来週も四つ回せる?』
高校生が口を開く。
「たぶん」
「約束はできない」
直人が横から言った。
受話器の向こうが黙る。
『四つくらいなら』
「今ある分なら、学校に聞けばいい」
『毎週四つ』
「それは約束しない」
『店からでもいいよ』
「店からも」
声を荒らげるでもなく、直人は配送表をめくった。
通信が切れる。
高校生が聞く。
「四つくらいなら出せるんじゃないですか」
「今週ならな」
「来週も多分」
「その多分で、向こうが四つあるつもりになったら?」
高校生は返事をしなかった。
学校へ行くと、森田が豆缶を棚へ並べていた。
「団地に四つ渡すんですよね」
「今日な」
「来週は?」
「知らん」
高校生は笑う。
「直人さんと同じこと言う」
「来週の豆なんて来週考えればいいだろ」
「予定、立てにくくないですか」
森田は棚の芋を指した。
その隣には乾物がある。
「豆が来る前提で組まなきゃいい」
高校生は四缶を配送箱へ入れた。
団地で受け取った女は、缶を床へ並べた。
「来週はないかもなんだって?」
「はい」
「困るなあ」
高校生が何か言う前に、女は四つのうち二つを棚の奥へ押した。
「じゃ、これは残しとく」
「食べないんですか」
「来週なかったら食べる」
残り二つだけを台所へ運んでいく。
店へ戻り、高校生は配送表へ、
《団地 豆缶4》
と書いた。
その下へ《次週》と書きかける。
ペン先を止めた。
横線で消す。
午後、団地からまた通信が来た。
『さっきの豆、二つ学校に戻していい?』
「残すんじゃなかったんですか」
『別の保存食が出てきた。学校が使うならそっちに回す』
高校生は学校へ繋ぐ。
『使う。明日取りに行く』
「じゃあ、団地に二つあります」
『了解』
高校生は配送表を見た。
《団地 豆缶4》
その数字のうち二つは、もう明日には別の場所へ行く。
「書き直します?」
直人が覗く。
「今日四つ届けたんだろ」
「はい」
「じゃあ合ってる」
高校生はペンを置いた。
夕方、団地から来た男がバーガーを受け取りながら言った。
「豆、来週なかったら芋にするってさ」
「そうですか」
「学校から二つ取りに来るし、今週も二つで足りる」
男は包みを抱えて出ていった。
高校生は配送表を閉じる。
表紙の端から、《次週》に引いた線だけが少し覗いていた。




