第157話 行かない選択
百六日目。
団地から通信が入った。
『北の倉庫、缶詰あるかもしれない』
直人が受話器を取る。
「あるかもしれない?」
『窓から箱が見えた。文字までは読めなかった』
「中には?」
『入ってない。扉の前に瓦礫ある』
直人はメモへ、
《北倉庫 箱あり 中身不明》
と書いた。
受話器を置く。
高校生が待っていた。
「行きます?」
「どこに?」
「倉庫」
「なんで?」
「缶詰かもしれないんですよ」
「かもしれないな」
直人は配送表へ目を戻した。
「確認しないんですか」
「今はしない」
高校生は店の在庫表をめくった。
「前なら行ってましたよね」
「前ならな」
「食料ですよ」
「まだ食料か分からない」
「だから確認に」
直人が顔を上げる。
「誰が必要としてる?」
高校生の手が止まった。
店の棚は足りている。学校から不足連絡はない。団地も、箱を見たと伝えただけだった。
「後で必要になるかも」
「なるかもな」
「その時なくなってたら?」
「なくなってるかもな」
高校生は昨日の箱を見る。
店から学校へ行き、また店へ来て、今朝もう一度学校へ向かう箱。
「全部先に持ってきたら、またここに集まりますね」
直人は配送表を畳んだ。
「学校便、出るぞ」
高校生が運転した。
北へ曲がれば倉庫だった。
交差点が近づくと、指がウインカーへ伸びた。
「ちょっと見るだけでも」
「今日は学校」
指を戻す。
車は直進した。
学校で荷物を降ろしながら、高校生は森田に聞いた。
「北の倉庫、知ってます?」
「知ってる」
「箱があるらしいです」
「へえ」
「見に行きません?」
「何入ってるの?」
「分からないです」
森田は棚へ芋の箱を置いた。
「じゃあ、今はいらない」
高校生は棚を見る。
芋、乾物、保存食。
帰りも倉庫の屋根が道路から見えた。
高校生は少し速度を落とした。
直人は何も言わない。
屋根が横へ流れ、後ろへ消えた。
店へ戻ると、団地の男が来ていた。
「倉庫、見た?」
「見てない」
「行かなかったの?」
「うん」
男は意外そうに笑う。
「珍しいな」
直人が聞く。
「今、必要?」
「いや」
「じゃあ、まだいいだろ」
「そうだな」
男はバーガーを注文した。
高校生は朝のメモを開く。
《北倉庫 箱あり 中身不明》
その下へ、
《未回収》
と書く。
二文字目まで見て、線を引いた。
《未確認》
書き直す。
午後、学校から通信が来た。
『北倉庫の話、まだある?』
「あります。中身は未確認です」
『明日、北へ薪取りに行く人がいるから、ついでに見るって』
「分かりました」
『使えそうならどうする?』
高校生は直人を見る。
直人は厨房前で荷物を数えていた。
「必要なところで使ってください」
『店には?』
高校生は少し考える。
「必要なら、こっちから言います」
通信が切れた。
高校生は《未確認》の下に何も足さなかった。
夕方、次の配送に出る。
交差点で、北へ向かう道がまた見えた。
高校生はウインカーに触れず、そのまま直進した。




