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第156話 戻ってくる物


百五日目。


学校から来た荷車に、見覚えのある箱が載っていた。


高校生が側面の薄い文字を指す。


《PANDEMONIUM》


「それ、うちのですよね」


森田が振り返る。


「そうなの?」


「配送で使ってた箱です」


「じゃあ、また来たんだな」


箱を下ろす。


中には空き瓶、布切れ、針金、小さな缶。それに金属の金具がいくつか入っていた。


「これ全部、店に?」


「使うなら」


「何と交換です?」


「別に」


「じゃあ、なんで持ってきたんです?」


森田が瓶を一本持ち上げる。


「学校に多すぎるから」


直人が蓋を確かめた。


「半分ないな」


「団地、欲しがるかも」


高校生が言う。


「じゃあ持ってけば?」


森田は瓶を箱へ戻した。


高校生が底の金具を拾う。


「これは?」


「壊した棚」


「学校の?」


「最初は団地にあった棚らしい」


「らしい?」


「俺が見た時には学校にあった」


高校生は金具を掌で転がした。


配送記録を開く。


同じ箱をPANDEMONIUMから学校へ送った記録が残っていた。三週間前。中身は乾物。


「箱、返却って書きます?」


直人が箱を見る。


側面には新しい傷。底には乾いた泥がこびりついている。


「返却なの?」


高校生も見る。


「違う気がします」


森田が横から言った。


「学校じゃ芋入れてたよ」


「その前は?」


「知らん」


「店から乾物運んだ箱ですよ」


「へえ」


「覚えてないんですか」


「箱だろ?」


高校生は配送記録を閉じた。


団地へ通信すると、蓋のない瓶を欲しいという返事が来た。


『苗を入れる』


「瓶に?」


『小さいうちだけ』


高校生は六本を別の箱へ移した。


布切れは渾沌が広げた。


「これ使っていい?」


「何に?」


「熱いの持つとき」


二つに折り、さらに重ねて鍋の取っ手をつかむ。


「いける」


針金は直人の工具箱へ入った。


缶の一つは厨房へ。残りは店に来た二人が、それぞれ持っていった。


高校生は最初だけメモを取っていたが、途中でペンを置いた。


団地へ瓶を届ける。


受け取った女が一本を光へ透かした。


「学校から?」


「学校から店に来て、ここです」


「じゃあ店の?」


高校生は空になった運搬箱を思い浮かべる。


「今は、ここのじゃないですか」


女は笑った。


「苗が大きくなったら、またどっか持ってくよ」


店へ戻ると、高校生は配送記録をもう一度開いた。


箱の欄の余白へ、


《再来》


とだけ書く。


直人が覗き込む。


「返却じゃないんだ」


「明日また学校が使うそうです」


「何に?」


「芋」


直人は笑った。


翌朝用の荷物をまとめるころ、箱の中はもう空になっていた。


高校生はそれを学校便の荷物の横へ置く。


渾沌が厨房から声をかけた。


「それも持ってくの?」


「向こうで芋入れるって」


「そっか」


渾沌は布切れを重ねたまま、熱い鍋を持ち上げた。


箱の側面には、薄い《PANDEMONIUM》の文字が残っている。


高校生はその文字を上にして、荷車へ載せた。

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