第152話 道が消える
百一日目。
高校生は学校の地図を壁から外した。
隅には、昨日自分で書いた《朝》。北側の細い点線へ指を置く。
「昨日、団地の人ここ通りましたよね」
荷物を車へ積んでいた直人が振り返る。
「歩きなら」
高校生は地図を畳んで持っていった。
配送を一件終え、学校近くへ車を置く。
北の道は入口まで地図どおりだった。曲がった柵。犬のいる家。犬が一度だけ吠える。
その先で、点線だけが続いていた。
土と枝と折れた板が、道を塞いでいる。脇の斜面が崩れ、向こう側の舗装路は見えているのに渡れない。
高校生は地図と目の前を交互に見た。
トランシーバーを取る。
「学校、聞こえますか」
『聞こえる』
森田だった。
「北の裏道、崩れてます」
『今朝崩れた』
「知ってたんですか」
『朝、見た人がいる』
高校生は手元の《朝》を見る。
「店の地図には載ってないです」
『昨日の写しだろ』
「連絡してくださいよ」
少し間があった。
『店、今日そこ使う予定だった?』
「いや。俺が見に来ただけですけど」
『なら、使う時に聞けばいいと思ってた』
高校生は口を閉じた。
昨日、自分で森田に言ったことだった。
「……迂回あります?」
『歩き?』
「歩きです」
『少し戻って、青い屋根の家の手前を右。畑の脇』
「地図にないですよ」
『今朝見つけた』
高校生は来た道を戻った。
青い屋根の手前。家と畑の間に、人ひとりが通れる踏み跡がある。
足元の土を踏んで確かめながら進むと、学校の裏へ出た。
森田がいた。
「来れたな」
「来れましたけど」
校舎へ入る。
廊下の大きな地図では、北の裏道に大きな×がついていた。畑の脇には細い線が一本増えている。
その横に、
《朝 通れた》
高校生が読む。
「『通れる』じゃないんですね」
「午後も通れるか分からんからな」
高校生はポケットからメモを出した。
《北裏道 朝 崩落確認》
《畑脇 徒歩通過》
書き終えてから、森田を見る。
「時刻、分かります?」
「崩れた方は七時半くらい。畑は今、お前が通った」
高校生は二行へ時刻を足した。
店へ戻ると、壁には昨日の学校地図が残っていた。
高校生は北の点線へ×を書こうとして、ペンを止める。
「消さないの?」
直人が聞く。
「昨日は通れたんで」
隣へ新しい紙を貼った。
《本日確認》
《7:30ごろ 北裏道 崩落確認》
《9:50 畑脇 徒歩通過》
団地から通信が入った。
『学校まで歩く。昨日の北道でいい?』
高校生は壁を見る。
「北道は朝、崩れてるのを確認してます。畑の脇は九時五十分に俺が歩けました」
『じゃあ、そっち行く』
高校生は一拍置いた。
「今も通れるかは、学校に聞いてください」
『分かった』
通信が切れる。
午後、雨が降り始めた。
高校生は窓を見た。畑脇の土を思い出す。
《本日確認》の一番下へ、
《15:29 雨》
と書く。
直人が紙を見る。
「道の情報じゃないだろ、それ」
「さっきの道、土だったんで」
「なるほど」
直人はそれ以上言わず、配送箱を持って出ていった。
壁には、昨日の地図と今日の紙が並んでいる。
北の点線は消していない。
高校生は《9:50 畑脇 徒歩通過》の横へ、あとから小さく書き足した。
《晴れ》




