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151/195

第151話 地図が二枚


百日目。


学校から来た男が、折り畳んだ紙をカウンターへ広げた。


高校生はすぐ眉を寄せた。


「これ、うちのと違う」


手描きの地図だった。


PANDEMONIUMの地図なら太く残っている道路が、途中から細い線になっている。代わりに、校舎の北から見覚えのない点線が伸びていた。


「これ何です?」


「裏道」


「道ないですよ、そこ」


「歩ける」


「車は?」


「無理」


高校生は壁から店の地図を外し、隣へ置いた。


二枚とも同じ地域を描いている。


店の地図には、配送車が通れる道路、崩落箇所、給油できる場所、転回できる場所。


学校の地図には、井戸、自転車を置ける場所、子どもでも抜けられる隙間、雨の日に滑る坂。


端には《犬》とだけ書かれた家もある。


直人がそこを指した。


「これ、いる?」


学校の男が答える。


「噛むよ」


「じゃあいるな」


高校生は透明な紙を持ってきた。


「一枚にしたら便利じゃないですか」


店の道路を写す。井戸を足す。裏道、給油地点、坂、崩落箇所。


《犬》を書いたところで、線と文字が重なった。


高校生は紙を持ち上げる。


「見えない」


「俺、車の転回場所いらないし」


学校の男が言う。


直人も店の地図を指す。


「こっちは井戸より、車が曲がれるかの方が大事だな」


「井戸、大事ですよ」


「歩くならな」


由佳が店へ入ってきた。


カウンターの二枚を見る。


「学校のだ」


「分かるの?」


「うん」


高校生が二枚を指す。


「違うでしょ」


由佳は店の方を見る。


「こっちは車の地図」


次に学校の方。


「こっちは歩く地図」


高校生は透明な紙を丸めた。


団地から通信が入った。


『学校行く道、どれがいい?』


「歩きですか、車ですか」


『歩き』


高校生は学校の地図を取る。


「北の細い道が近いです。坂が滑るって書いてあります」


『今日晴れてるから、そこ行く』


通信が切れた。


透明な紙は丸めたまま、カウンターの端に残った。


高校生は学校の地図を壁へ貼った。


店の地図の上ではなく、隣に。


その日の配送で学校へ着くと、廊下の壁にもっと大きな地図があった。


朝に店へ届いた写しより、書き込みが増えている。


《水たまり》


《午後は影》


《ここ柵こわれた》


高校生が自分の持ってきた写しと見比べる。


「もう違う」


森田が横から覗いた。


「朝から使ってるからな」


「店の、もう古いじゃないですか」


「朝の地図ではあるだろ」


高校生は壁の大きな地図を見る。鉛筆の濃さも、字の形もばらばらだった。


「これ、写して帰ります?」


森田が聞く。


高校生は答えかけて止まる。


地図の端で、子どもが新しく何か書いていた。


《ここ みず》


「……やめときます」


「いいのか?」


「また変わるし。必要な時に聞きます」


店へ戻ると、二枚の地図は朝のまま並んでいた。


高校生は学校の地図の隅へ、小さく《朝》と書いた。


その横で、店の配送地図を直人が外す。


「学校便、出るぞ」


「どっちで行きます?」


「車だから、こっち」


直人は自分たちの地図を持っていった。


残った学校の地図には、北へ伸びる細い点線がある。


高校生は丸めた透明な紙をほどきかけた。


少し考えて、また丸めた。

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