第150話 どっちが本物
九十九日目。
団地の男がバーガーを半分ほど食べたところで、昨日の話を持ち出した。
「学校にもバーガー屋できたんだって?」
高校生は首を振る。
「店じゃないです。向こうでは『挟んだやつ』です」
「でもパンに挟んだんだろ」
「芋と肉を」
男は手元のバーガーと見比べた。
「じゃあ、こっちが本物か」
高校生もつられて厨房を見る。
直人は水を飲んでいた。
「何が?」
「バーガー。こっちは店だし、先に作ってたし」
直人は男の手元を見た。
「それ、本物じゃないと困る?」
「いや」
「じゃあ食えばいいじゃん」
男は笑って、残りをかじった。
高校生はまだ気になった。
「でも、この辺ではPANDEMONIUMの方が先ですよね」
「たぶんな」
「元祖ってことには」
「世界で最初のバーガー作ったわけじゃないだろ」
「そうですけど」
直人は次の注文票を取った。
「先だったら、後から挟んだ方は偽物なの?」
高校生は返事をしなかった。
厨房から渾沌が顔を出す。
「なに話してるの?」
「ここのバーガーと、学校の挟んだやつ、どっちが本物かって」
渾沌は少し考えた。
「どっちも食べ物じゃない?」
「直人さんとほぼ同じです」
「そうなの?」
渾沌は少し嬉しそうに厨房へ戻った。
昼過ぎ、学校から二人来た。
一人はコーヒー。もう一人はバーガーを注文した。
高校生が伝票を書きながら聞く。
「学校で昼、食べてきたんですよね?」
「食べたよ」
「まだ食べるんですか」
「ここのは食べたい」
男は届いたバーガーを両手で持った。
さっきまで本物を気にしていた団地の男が、その向かいから声をかける。
「昨日の、また作る?」
「パンないから今日は作らない」
「名前つければいいのに」
「いらんよ」
「ここと勝負できるぞ」
学校の男は包み紙を少し下げた。
「何を勝負するんだ?」
団地の男が笑う。
「味とか、客の数とか」
「俺、今ここの食ってるけど」
一瞬、誰も言わなかった。
高校生が吹き出した。
「確かに」
直人もカウンターの奥で笑った。
客が引いたあと、高校生は注文票を束ねた。
「もし学校の方で食べる人がもっと増えたら、こっちの客、減りますよね」
「減るかもな」
「いいんですか」
直人は余った包み紙を揃えている。
「その人数分、作るの減らせばいいだろ」
「悔しくないです?」
直人の手が止まった。
「飯食える場所が増えて、なんで悔しがるんだよ」
高校生は注文票の束を棚へ入れた。
「店長向いてないですね」
「今さら?」
午後、団地から通信が入った。
『学校の飯、明日見に行っていいって?』
直人が受話器を取る。
「学校に聞いて」
『そっちじゃ分からない?』
「向こうの場所だから」
『連絡先は?』
直人は学校の周波数を伝えた。
少しして、別のトランシーバーから学校側の声が聞こえる。
『明日? 昼ならいるよ』
団地の声が返った。
『二人で行く』
『皿足りないかも。何か持ってきて』
『了解』
高校生は店の予定表を見た。
書く欄を探しかけて、やめる。
通信はそのまま学校と団地の間で終わった。
夕方、学校から来ていた男が帰り際に言った。
「明日、芋余ったら持ってくかも」
「挟んだやつ?」
「芋だけ」
「バーガーじゃないんですね」
「芋だって」
男が笑って扉を出る。
高校生はカウンターに残った包み紙を片づけた。
団地の男が食べたものも、学校の男が食べたものも、同じごみ箱に入った。




